極上ショコラ〜恋愛小説家の密やかな盲愛〜
視界に映るのは、“パヴェ・ド・ショコラ”。
それが降ってくる映像がやけにスローモーションに見えて、まるで降雪のように思えた。


「【失恋ショコラ】の“小説家”は、俺だよ」


それは、読んだ瞬間からわかっていたこと。


だけど──。

「あれを読んで、なんで伝わらないんだよ」

小説家の想いまで、ノンフィクションだとは思わなかったのだ。


てっきり篠原の虚構だと思っていたそれも、れっきとした事実だったらしい。


「そのうえ、俺の渾身の作品に文句までつけるとはな……。こんなにも腹立たしいのは初めてだよ」


眉を寄せたままの彼が、舌打ちを響かせた。


「しかも、俺を軽薄な男みたいに言いやがって……。俺は好きな女しか抱かないんだよ」


さらに、篠原は恨みを込めたような声で呟き、綺麗な指で摘んだチョコを私の首筋に擦りつけた。


「……っ!」

「だから、お前の気持ちを聞かせろよ。言っとくけど、この期に及んで『わからない』とは言わせないからな?」


彼は逃がさないとでも言うように、私の瞳をじっと見つめている。
至近距離で見るには刺激が強過ぎる綺麗な顔と状況を把握した思考が、血液が沸騰してしまいそうなほどの熱を与える。


反して篠原は、いつもの憎らしくて余裕たっぷりの笑みを浮かべていた。

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