極上ショコラ〜恋愛小説家の密やかな盲愛〜

Chocolat,02 行き場を失くしたソレ

夕食の支度ができた頃、篠原がタイミング良くリビングに顔を出した。


「あ〜、腹減った〜……」

「原稿、できましたか?」

「そんなすぐにできるか」

「……締切は一週間前でしたけど」

「本当、お前はうるさいな」


彼は面倒臭そうに言って、食事に箸を付けた。


キッチンを片付けながら、黙々と食べる姿を見つめる。その横顔すら端正で、篠原の書く“ヒロインを愛する男”はみんな、彼自身なのではないかと思う。


「……なんだよ?」

「いえ」


私の視線に気づいて眉を寄せた篠原から、慌てて目を逸らした。彼はそれからも黙々と箸を進め、サラダやお味噌汁まで綺麗に完食した。


いつもメインへの要望しか言われないから、他のメニューは私が勝手に作っているけれど……。不思議なことに、篠原がそれらを残したことは一度もない。


「先生って、嫌いな物とか苦手な物はないんですか?」

「さぁな」


私の疑問をあしらうように答えた彼は、キッチンで洗い物をする私を見ながらニヤリと笑った。


「なぁ、塚本」

「はい?」


その表情に嫌な予感を抱きながらも返事をすると、篠原がどこか楽しげに続けた。


「お前、男と別れただろ?」

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