極上ショコラ〜恋愛小説家の密やかな盲愛〜
別に比べるつもりはないし、私なんかが女優と同じ土俵に立てるわけもないけれど──。

「篠原先生、エスコートしてくださいませんか?」

勝ち誇ったような笑みに居た堪れなくなって劣等感を抱いてしまい、篠原に密着するセリナさんから視線を逸らした。


ただ、彼はきっと不機嫌なはずだから断る言い訳を考えているのだろうと思い込み、なんの疑いも不安もなかった。


だけど──。

「そうですね。行きましょうか」


篠原は、実にあっさりと快諾したのだ。


驚きで小さく見開いた瞳を慌ててふたりに遣ると、彼がさりげなくセリナさんから腕を抜き、細い腰に手を添えたところだった。


どこからどう見ても、とてもいい雰囲気。
チラチラと私たちの様子を窺っていた人たちの視線が、言葉よりも雄弁にそう物語っていた。


上品なスーツに身を包んだ篠原の手の下には、背中が大きく開いた真紅のドレス。その布一枚を隔てた先にセリナさんの肌があるのだと思うと、一瞬でドロドロとした感情が芽生えた。


これって……嫉妬……?


抱いた感情の呼び名はすぐにわかったけれど、こんなにもはっきりと自覚したことはなくて、ただただ戸惑った。
自分が彼女と比べられるだけのレベルに達していないのは一目瞭然なのに、沸々と濃くなっていく汚い感情は止まらない。

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