極上ショコラ〜恋愛小説家の密やかな盲愛〜
「お飲み物はいかがですか?」


笑顔のウエイターから無言でグラスを受け取り、シャンパンを一気に飲み干す。
唖然とするウエイターのトレイにグラスを戻し、同じ飲み物が注がれているグラスをもうひとつ空にしたあと、その場から性急に離れた。


そのままパーティー会場を出たのは、自分自身を落ち着かせる時間が必要だったから。すぐ傍にあるパウダールームに入り、ため息混じりに手を洗った。


本来なら顔を洗いたいところだけれど、今日はパーティー仕様にしっかりとメイクをしていて、それは叶わない。
もっとも、どんなにメイクを頑張っても、綺麗な女優の前では存在感なんて皆無なのだけれど……。


ネイビーのドレスは、親戚の結婚式に出席するために購入した物。
ハイネックホルターのミディアム丈で落ち着いたデザインとは言え、ノースリーブを着ることなんて滅多にないから、私なりに精一杯頑張って選んだつもりだった。


だけど──。

「……学芸会の衣装みたい」


セリナさんの前では、私のドレスなんて思わず漏れた言葉程度の物にしか見えない。


そして、なによりも華がないのは、それらを纏っている私自身。
その事実を痛感したからこそ、篠原と彼女が恋人同士に見えたことに嫉妬心を抱き、居た堪れなくなってしまったのだ。

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