極上ショコラ〜恋愛小説家の密やかな盲愛〜
「あ、転職したんだよ、俺。それより、久しぶりだな」


どんな事情があるのかは知らないけれど、元カレの転職先だなんて思ってもみなかったから、すぐに言葉が出てこない。


「雛子? どうした?」

「別に……」


和也と別れた時のことを思い出し、彼の無神経さに苛立った。


「なんだよ……。あの時のこと、まだ怒ってるのか?」


すると、なにを勘違いしたのか、和也はそんな見当違いなことを口にした。


「そんなんじゃないわよ。私、急いでるから」

「おい、待てよ」


一刻も早く彼から逃れたくて踵を返したけれど、手首を掴まれてしまう。


「素っ気なくないか? 一応、元カレだぞ?」

「だからなに? 浮気した相手とにこやかに話せるほど、私は寛大じゃないから」

「……相変わらずだな、その可愛いげのなさ」


凜とした態度でいようと思ったけれど、和也に吐き出された言葉に胸の奥が痛む。
こんな奴のせいで傷つく必要はないのに、その痛みは強くなっていった。


「その分だと、恋人なんていないだろ? 俺、この間彼女と別れたばかりだし、今ならやり直してもいいぞ」


彼はこんなにも無神経で、低俗な人だっただろうか。それに気づかなかった過去の自分が、とてもバカみたいに思えた。

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