極上ショコラ〜恋愛小説家の密やかな盲愛〜
「……ご心配なく。これでも、恋人はいるから」


それはもちろん、篠原のこと。


彼と釣り合わないということくらいわかっているし、自分でも本当に付き合っているのかと疑いそうになるけれど──。

「和也よりも遥かに素敵な男性だから、間違ってもあなたなんかと付き合ったりしない」

それでもきっぱりと言い放ち、手首を掴んだままの手を振り払った。


「別にいいよ、そんな見栄張らなくて」


見栄なんかではない、と口にしようとして、喉元で飲み込む。


「……どう思ってくれても構わないよ」


そして、今度こそ踵を返した直後、目を見開いた。


「先生……」


目の前にいたのは篠原で、不機嫌な表情を向けられていることに嫌な予感を抱く。


「……なんだよ、こいつ」


苛立ち混じりの声に予想が的中していることを悟り、彼の機嫌をこれ以上損なわないように言い訳を考えたけれど──。

「言えないような関係なのかよ」

それを思いつく前に、自己完結されてしまった。


チッと舌打ちをされ、思わず体が強張る。
篠原はそのまま背を向け、さっさとパーティー会場の方へと戻り始めた。


「先生っ……!」

「待てよ、雛子!」


慌てて彼を追いかけようとすると、和也に腕を掴まれてしまった。

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