極上ショコラ〜恋愛小説家の密やかな盲愛〜
「いい加減にして!」


力いっぱい腕を引き、和也を睨む。


「な、なんだよ……。そんなに怒ること──」

「私、今日は仕事で来てるの」


付き合っていた頃には見せることのなかった怒気を孕んだ態度は、彼を少しだけ怯ませたらしい。
言葉を制された和也はポカンとし、開きかけたままの彼の唇は動かない。


「あの時のことなんて、もうどうでもいいの」


それは、心からの本音。
あの浮気現場は今でも脳裏に残っているけれど、和也と別れた日のことなんてもう本当にどうでもいいし、なによりも今は目の前にいる彼のことを気にかけている時間はない。


「だから、もう二度と私に関わらないで」


呆然としたままの和也に冷たく「さよなら」とつけ足し、立ち尽くしている彼を放って今度こそ足早に歩き出す。


すっきりとしたわけじゃない。
だけど、今の私の心には和也のことに対する後悔はなくて、彼への未練がないことだけは明白だった。


パーティー会場に戻ると、すぐに関係者たちと談笑している篠原の姿を見つけることができたけれど……。彼の隣には、相変わらず人目を引く女優が当たり前のように寄り添っていて、私なんかが近寄る隙なんてないと感じてしまった──。

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