絵本男と年上の私。
そこには、ベテラン保育士と白が怒鳴ってしまった子ども、あおい君が廊下に立っていた。彼はまだ目に涙を溜めている。
その先生と栗花落先生が少し会話を交わし、その後ベテラン保育士はクラスに戻っていった。
「羽衣石くん、あおい君がお話しあるみたいなんだけど、いいかな。」
白は小さくうなずくと、彼の元へと歩いた。
「お話しできる?」
そう声を掛けるが、泣いており話そうとしても上手く言葉にならないようで、白には何を言っているのか理解できなかった。
「羽衣石くん、あのね。あおい君は、バックにあったスケッチノートが見えて、そこに書いてあったものがあおい君の大好きな絵本と同じものだったみたいで。だから、とってしまったらしいの。」
そこまで言うと、あおい君は泣いていた顔のまま白の方をじっと見つめた。
「・・・取っちゃってごめんなさい。」
そう謝ると、持っていた絵本を白に渡した。
「これは・・・?」
「あおい君が大好きな絵本なの。この絵本の絵と同じだと思ったらしいの。それを見せたかったのよね。」
「うん、この絵本に出てくる綺麗なの、一緒!」
白はその絵を受け取り、表紙を見つめた。
その絵を見た瞬間から、それから視線を逸らせなかった。キラキラと輝く太陽の光の中、色鮮やかな花々に囲まれて嬉しそうに微笑む男の子と、神秘的な妖精。
淡い色で描かれてはいたが、それは同じだった。
白が憧れていた絵。それと似ていたのだ。
すぐに作者を確認すると、そこには「キノシタ イチ」と書かれている。
「これと同じ、だと思ったのか?僕の絵が?」
「・・・うん!だって綺麗な妖精描いてあったよね!おにいちゃん、すごいねー!」
先ほどまで泣いていた男の子は、今では笑顔を見せており、ニコニコと白を見て笑っていた。
自分が憧れていた人の絵と同じだと思ってくれた。そして、怒鳴られた相手を褒める。自分よりも3歳の子どもの方がずっと大人に見えた。
「・・・怒鳴って悪かった。」
「うん!どーいたしまして!」
「ふふふ。あおい君、そこは「いいよ。」って言うんだよ。」
そんな話をしている2人の声を聞きながら、白は絵本を捲った。そこには、デジタル画ではなく水彩画で描かれた綺麗な妖精とかわいらしい男の子が描かれていた。
どのページにも光が感じられ、生き生きとしている。今にもこの2人が話し出しそうな、そんな絵だった。
(これと俺の絵が同じ・・?そんなまさかな・・・・。でも・・。)
急に白の視界がぼやけた。
そこで焦って目を擦ると、自分の目から涙が溢れそうになっているのがわかった。
どうして自分が泣いてしまっているのか理解できず、必死に目を擦る。
「・・・じゃあ、あおい君はお部屋に戻ろうね。」
栗花落先生が気を使ったのがわかった。
2人は、静かに小さな図書館から出て行った。
静かになった部屋で、白はその絵本を読み始めた。
それは、妖精と男の子が出会い一緒に遊ぶ物語。花畑でであった妖精と仲良くなって遊ぶが、妖精は途中で別れを告げる。その花の時期が終わってしまい来年まで長い眠りにつくのだ。
それを悲しがって泣いてしまう男の子のために、妖精は夜の暗い森を探検する。時にはふくろうやオオカミに襲われそうになりながらも、妖精はある物を見つけた。
次の日、男の子に、キラキラと輝く白く透明な石を渡す。「これを持っていれば、きっと来年会えるよ。僕がその石の光をたどって会いに行くから。」そう言って、妖精は消えてしまうのだ。
そしてその男の子は、その石を強く握り締めて泣かずに妖精と別れの挨拶を交わす。「また次の春に会おう」と。
そんな話だった。
どのページの絵も、白とってはキラキラと輝く宝石のように見えた。
今の自分の実力では、同じような物を描こうと思っても描けない。
だけれど、あの男の子は大好きな絵本と同じだと思ってくれた。
そして「すごい!」と褒めてくれた。
今まで誰にも見せてこなかった自分の絵。
もしかしたら、自信がなかったのかもしれない。ネットなどに投稿したり、コンテストだって今はいくらでもある。それにも出さなかったのは、自分の絵に評価がつくのが怖かったのだ。
そこから逃げていた。
だが、それでいいのだろうか。絵で生きて生きたいと思って頑張っているのに、そこから逃げていたら何も変わらない。
今は自分を褒めてくれた1人の男の子がいる。それだけで、何故か安心感と希望が見えてきた気がした。
「その絵本とっても綺麗だよね。」
あおい君をクラスまで送ってきたのだろう。気づくと、図書室に栗花落先生が戻ってきていた。
そして、この2日間で何回もみた優しい微笑みでそう話をしていた。
「俺は、あなたの話を信じていれば、何でもできるかな?」
「・・・うん、1つ信じられれば、また1つ信じるものが出来るんじゃないかな。」
「・・・絵、上手になれるかな?」
「信じていれば。」
「友達、出来るかな?」
「信じていれば。」
「夢は叶うかな。」
「信じていれば。」
そう得意げにいう栗花落先生を見て、白は苦笑した。
年上なのに、何故か幼く見える彼女だが、やはりしっかりとした大人だった。自分とは全く違う。
キラキラとした笑顔を持つ、そんな女性だった。
「信じて頑張っても叶わなかった事はないの?」
「んー・・・彼氏が出来ない事かな。」
そう悔しそうに言う彼女を見て、白は初めて声を出して笑った。
「くくくッ・・・なんだよそれッ。」
「あぁー!笑ったねー。結構頑張ってるんだけどなぁー。」
「じゃあ、俺が頑張って叶える。」
「え?」
その答えがよくわからなかったのか、不思議そうに首を傾げる栗花落先生に、その絵本を差し出した。
だが、先生は首を横に振って「その絵本はプレゼント。信じてくれたお礼。」そういって、その絵本を優しく押し返して白に渡した。
その優しい微笑みは、10年経った後も忘れる事は出来なかった。
この時から白は恋をしたのだと確信した。
そして、自分の願いも彼女の願いも叶える、と。
その後、白はお礼の手紙と共に栗花落先生に絵を描いて送った。
初めて挑戦した水彩画。花に囲まれる栗花落先生と「頑張る。」というメッセージと共に。
その先生と栗花落先生が少し会話を交わし、その後ベテラン保育士はクラスに戻っていった。
「羽衣石くん、あおい君がお話しあるみたいなんだけど、いいかな。」
白は小さくうなずくと、彼の元へと歩いた。
「お話しできる?」
そう声を掛けるが、泣いており話そうとしても上手く言葉にならないようで、白には何を言っているのか理解できなかった。
「羽衣石くん、あのね。あおい君は、バックにあったスケッチノートが見えて、そこに書いてあったものがあおい君の大好きな絵本と同じものだったみたいで。だから、とってしまったらしいの。」
そこまで言うと、あおい君は泣いていた顔のまま白の方をじっと見つめた。
「・・・取っちゃってごめんなさい。」
そう謝ると、持っていた絵本を白に渡した。
「これは・・・?」
「あおい君が大好きな絵本なの。この絵本の絵と同じだと思ったらしいの。それを見せたかったのよね。」
「うん、この絵本に出てくる綺麗なの、一緒!」
白はその絵を受け取り、表紙を見つめた。
その絵を見た瞬間から、それから視線を逸らせなかった。キラキラと輝く太陽の光の中、色鮮やかな花々に囲まれて嬉しそうに微笑む男の子と、神秘的な妖精。
淡い色で描かれてはいたが、それは同じだった。
白が憧れていた絵。それと似ていたのだ。
すぐに作者を確認すると、そこには「キノシタ イチ」と書かれている。
「これと同じ、だと思ったのか?僕の絵が?」
「・・・うん!だって綺麗な妖精描いてあったよね!おにいちゃん、すごいねー!」
先ほどまで泣いていた男の子は、今では笑顔を見せており、ニコニコと白を見て笑っていた。
自分が憧れていた人の絵と同じだと思ってくれた。そして、怒鳴られた相手を褒める。自分よりも3歳の子どもの方がずっと大人に見えた。
「・・・怒鳴って悪かった。」
「うん!どーいたしまして!」
「ふふふ。あおい君、そこは「いいよ。」って言うんだよ。」
そんな話をしている2人の声を聞きながら、白は絵本を捲った。そこには、デジタル画ではなく水彩画で描かれた綺麗な妖精とかわいらしい男の子が描かれていた。
どのページにも光が感じられ、生き生きとしている。今にもこの2人が話し出しそうな、そんな絵だった。
(これと俺の絵が同じ・・?そんなまさかな・・・・。でも・・。)
急に白の視界がぼやけた。
そこで焦って目を擦ると、自分の目から涙が溢れそうになっているのがわかった。
どうして自分が泣いてしまっているのか理解できず、必死に目を擦る。
「・・・じゃあ、あおい君はお部屋に戻ろうね。」
栗花落先生が気を使ったのがわかった。
2人は、静かに小さな図書館から出て行った。
静かになった部屋で、白はその絵本を読み始めた。
それは、妖精と男の子が出会い一緒に遊ぶ物語。花畑でであった妖精と仲良くなって遊ぶが、妖精は途中で別れを告げる。その花の時期が終わってしまい来年まで長い眠りにつくのだ。
それを悲しがって泣いてしまう男の子のために、妖精は夜の暗い森を探検する。時にはふくろうやオオカミに襲われそうになりながらも、妖精はある物を見つけた。
次の日、男の子に、キラキラと輝く白く透明な石を渡す。「これを持っていれば、きっと来年会えるよ。僕がその石の光をたどって会いに行くから。」そう言って、妖精は消えてしまうのだ。
そしてその男の子は、その石を強く握り締めて泣かずに妖精と別れの挨拶を交わす。「また次の春に会おう」と。
そんな話だった。
どのページの絵も、白とってはキラキラと輝く宝石のように見えた。
今の自分の実力では、同じような物を描こうと思っても描けない。
だけれど、あの男の子は大好きな絵本と同じだと思ってくれた。
そして「すごい!」と褒めてくれた。
今まで誰にも見せてこなかった自分の絵。
もしかしたら、自信がなかったのかもしれない。ネットなどに投稿したり、コンテストだって今はいくらでもある。それにも出さなかったのは、自分の絵に評価がつくのが怖かったのだ。
そこから逃げていた。
だが、それでいいのだろうか。絵で生きて生きたいと思って頑張っているのに、そこから逃げていたら何も変わらない。
今は自分を褒めてくれた1人の男の子がいる。それだけで、何故か安心感と希望が見えてきた気がした。
「その絵本とっても綺麗だよね。」
あおい君をクラスまで送ってきたのだろう。気づくと、図書室に栗花落先生が戻ってきていた。
そして、この2日間で何回もみた優しい微笑みでそう話をしていた。
「俺は、あなたの話を信じていれば、何でもできるかな?」
「・・・うん、1つ信じられれば、また1つ信じるものが出来るんじゃないかな。」
「・・・絵、上手になれるかな?」
「信じていれば。」
「友達、出来るかな?」
「信じていれば。」
「夢は叶うかな。」
「信じていれば。」
そう得意げにいう栗花落先生を見て、白は苦笑した。
年上なのに、何故か幼く見える彼女だが、やはりしっかりとした大人だった。自分とは全く違う。
キラキラとした笑顔を持つ、そんな女性だった。
「信じて頑張っても叶わなかった事はないの?」
「んー・・・彼氏が出来ない事かな。」
そう悔しそうに言う彼女を見て、白は初めて声を出して笑った。
「くくくッ・・・なんだよそれッ。」
「あぁー!笑ったねー。結構頑張ってるんだけどなぁー。」
「じゃあ、俺が頑張って叶える。」
「え?」
その答えがよくわからなかったのか、不思議そうに首を傾げる栗花落先生に、その絵本を差し出した。
だが、先生は首を横に振って「その絵本はプレゼント。信じてくれたお礼。」そういって、その絵本を優しく押し返して白に渡した。
その優しい微笑みは、10年経った後も忘れる事は出来なかった。
この時から白は恋をしたのだと確信した。
そして、自分の願いも彼女の願いも叶える、と。
その後、白はお礼の手紙と共に栗花落先生に絵を描いて送った。
初めて挑戦した水彩画。花に囲まれる栗花落先生と「頑張る。」というメッセージと共に。