絵本男と年上の私。
6話「ヒント」
6話「ヒント」
白と出掛けることになったのは、つい最近だった。
その日は早番勤務だったため16時過ぎには仕事が終わり、その足でもちろんいつもの公園を通って駅に向かおうとしていた。
もちろん、「早番お疲れ様です、しずくさん。」と白が小走りで近づいてきた。それもいつもの光景になっている。
いつものように、何でもない会話をして歩く。
「早番だと何時に起きるんですか?」
「4時半かな。」
「早いなぁ。僕が寝てる時間に近いかも。」
「朝はゆっくり起きるんだ。」
「夜行性かもしれませんね。」
そんな話をしていると、いつもの平日よりも駅前は人で溢れていた。今日は、ゴールデンウィーク初日の前日だったのだ。
「今日は混んでますね。どうしてだろう・・・。」
「明日からゴールデンウィークで休みだからじゃないかな。」
「あ、そうか。すっかり忘れてた。」
そこで、白は「もしかして・・・。」と、何故か恐る恐るしずくの方を見ており、表情が暗い。
ゴールデンウィークは忙しいのだろうか?などとしずくは思ったが、そういう事ではないようだった。
「もしかして、祝日は保育園休みですか?!」
「・・・うん。日曜日と祝日は休園日だから、次は4日後になるかな。」
「4日?!そんなに休みなんですか?」
「うん。」
白は、目に見えて気を落としているようで、先ほどまでの満面の笑みはどこかに行ってしまったようだった。
ゴールデンウィークをそんなに嫌がるという事は、お客さんが多くなるサービス業なのかな?と考えてしまった。
そして、足を止めて何かを考えるようにブツブツと一人呟いている彼を、しずくは不思議そうに眺めていた。「仕事頑張って。」と、励まそうかと悩んでいると、彼は急に顔を上げてしずくに早口で話しかけた。
「しずくさんって、まだ僕の事何も思い出せてないんですよね!?」
「えッ!?」
白は、何故かしずくの言って欲しくない言葉を大きな声で質問してきたのだ。よりにも寄って、何故その話題を出したのか。
駅周辺だったので、突然大きな声でそんな事を言った白を、周りの人々は何事か? と見ていた。
しずくは、白の言葉の内容にも、周りの視線からからも逃げたくなり、顔を真っ赤にして「白くん、大きな声でそんな事は・・・。」と、声を小さくしながら抵抗をした。
「私もいろいろ探したり、実家からアルバムとか送ってもらって見たりもしてるんだけど。」
「って事はまだなんですね!?」
「う、うん。」
白のあまりの迫力に驚きながらも、正直に返事をする。
本来ならば、まだ思い出していないといったら白は残念そうにするはずだった。本当ならば。
だが、今日の白は何か違っており、しずくの返事を聞くと不思議な事ににっこりと微笑んだのだ。
しずくは、訳が分からず混乱していると、白はずいっとしずくに近づいた。
ただ一緒に歩くだけではこんなに近い距離になる事はなかった。
だからだろうか。
あの日の事を思い出してしまう。
雨音と雨の匂い、温かい腕の中、とくんとくんという自分とは違う鼓動の音。
目と耳と鼻・・・全身で感じてしまった彼に抱きしめられたという感触。
それを思い出ししてしまう。その瞬間に鼓動が早くなり、顔が熱くなる。
そんな自分を見られてしまうのが、どうも恥かしくてしずくは、それを隠すように少し俯いた。
だが、白はそんなしずくには全く気づいてないようで、どこか嬉しそうに話を続けた。
「じゃあ、ヒントをあげるから、ゴールデンウィークはデートに行きましょう!」
と、白はまたもや条件を突きつけてきたのだった。
だったのだが。
デート当日は、しずくが風邪をひいてしまいキャンセルをしてしまった。
連絡先を交換していなかったため、家まで迎えに来てくれた白を、マスクにやつれた顔、家着に近い服装でふらふらとマンションの入り口までしずくが行くと白は慌てていた。
もちろん「デートは大丈夫だからゆっくり休んでください。」と心配そうに言って帰ってくれた。
本当は「ご飯つくります。看病します!」とも言ってくれたが、風邪をうつすのは申し訳なかったし、以前の白の言葉を思い出すと家に入れてしまうのはよくないな、と思ってしまったのだ。
そういうわけで、ゴールデンウィーク明けに平日休みを利用してデートをする事になったのだった。
「どうしたんですか?眠いですか?」
車の中で、少し前の事を思い出していると、白が運転をしながら話をかけてきた。
呆然としていたので、心配したのだろう。「大丈夫だよ。」と返事をすると、「考え事ですか?」と白が言った。
「えーっと、ヒントって何かなーって。」
と、しずくが誤魔化すと、白は少しだけ苦笑した。
「もしかして、ドライブでデート終わりにして、ヒント聞きたいって事じゃないですよね?」
「え!?違う・・けど。なんかやっぱり気になるし。」
と、焦りながら返事をすると「冗談ですよ。でも・・・。」と笑いながら、白は言葉を続ける。
「そうやって僕の事を考えてくれてるのは嬉しいです。」
まっすぐ前を見て運転をしながら白はそう言った。
そんな彼を横顔を、見つめた後、しずくは同じように前を見ながら「うん。」と返事をしたのだった。
白と出掛けることになったのは、つい最近だった。
その日は早番勤務だったため16時過ぎには仕事が終わり、その足でもちろんいつもの公園を通って駅に向かおうとしていた。
もちろん、「早番お疲れ様です、しずくさん。」と白が小走りで近づいてきた。それもいつもの光景になっている。
いつものように、何でもない会話をして歩く。
「早番だと何時に起きるんですか?」
「4時半かな。」
「早いなぁ。僕が寝てる時間に近いかも。」
「朝はゆっくり起きるんだ。」
「夜行性かもしれませんね。」
そんな話をしていると、いつもの平日よりも駅前は人で溢れていた。今日は、ゴールデンウィーク初日の前日だったのだ。
「今日は混んでますね。どうしてだろう・・・。」
「明日からゴールデンウィークで休みだからじゃないかな。」
「あ、そうか。すっかり忘れてた。」
そこで、白は「もしかして・・・。」と、何故か恐る恐るしずくの方を見ており、表情が暗い。
ゴールデンウィークは忙しいのだろうか?などとしずくは思ったが、そういう事ではないようだった。
「もしかして、祝日は保育園休みですか?!」
「・・・うん。日曜日と祝日は休園日だから、次は4日後になるかな。」
「4日?!そんなに休みなんですか?」
「うん。」
白は、目に見えて気を落としているようで、先ほどまでの満面の笑みはどこかに行ってしまったようだった。
ゴールデンウィークをそんなに嫌がるという事は、お客さんが多くなるサービス業なのかな?と考えてしまった。
そして、足を止めて何かを考えるようにブツブツと一人呟いている彼を、しずくは不思議そうに眺めていた。「仕事頑張って。」と、励まそうかと悩んでいると、彼は急に顔を上げてしずくに早口で話しかけた。
「しずくさんって、まだ僕の事何も思い出せてないんですよね!?」
「えッ!?」
白は、何故かしずくの言って欲しくない言葉を大きな声で質問してきたのだ。よりにも寄って、何故その話題を出したのか。
駅周辺だったので、突然大きな声でそんな事を言った白を、周りの人々は何事か? と見ていた。
しずくは、白の言葉の内容にも、周りの視線からからも逃げたくなり、顔を真っ赤にして「白くん、大きな声でそんな事は・・・。」と、声を小さくしながら抵抗をした。
「私もいろいろ探したり、実家からアルバムとか送ってもらって見たりもしてるんだけど。」
「って事はまだなんですね!?」
「う、うん。」
白のあまりの迫力に驚きながらも、正直に返事をする。
本来ならば、まだ思い出していないといったら白は残念そうにするはずだった。本当ならば。
だが、今日の白は何か違っており、しずくの返事を聞くと不思議な事ににっこりと微笑んだのだ。
しずくは、訳が分からず混乱していると、白はずいっとしずくに近づいた。
ただ一緒に歩くだけではこんなに近い距離になる事はなかった。
だからだろうか。
あの日の事を思い出してしまう。
雨音と雨の匂い、温かい腕の中、とくんとくんという自分とは違う鼓動の音。
目と耳と鼻・・・全身で感じてしまった彼に抱きしめられたという感触。
それを思い出ししてしまう。その瞬間に鼓動が早くなり、顔が熱くなる。
そんな自分を見られてしまうのが、どうも恥かしくてしずくは、それを隠すように少し俯いた。
だが、白はそんなしずくには全く気づいてないようで、どこか嬉しそうに話を続けた。
「じゃあ、ヒントをあげるから、ゴールデンウィークはデートに行きましょう!」
と、白はまたもや条件を突きつけてきたのだった。
だったのだが。
デート当日は、しずくが風邪をひいてしまいキャンセルをしてしまった。
連絡先を交換していなかったため、家まで迎えに来てくれた白を、マスクにやつれた顔、家着に近い服装でふらふらとマンションの入り口までしずくが行くと白は慌てていた。
もちろん「デートは大丈夫だからゆっくり休んでください。」と心配そうに言って帰ってくれた。
本当は「ご飯つくります。看病します!」とも言ってくれたが、風邪をうつすのは申し訳なかったし、以前の白の言葉を思い出すと家に入れてしまうのはよくないな、と思ってしまったのだ。
そういうわけで、ゴールデンウィーク明けに平日休みを利用してデートをする事になったのだった。
「どうしたんですか?眠いですか?」
車の中で、少し前の事を思い出していると、白が運転をしながら話をかけてきた。
呆然としていたので、心配したのだろう。「大丈夫だよ。」と返事をすると、「考え事ですか?」と白が言った。
「えーっと、ヒントって何かなーって。」
と、しずくが誤魔化すと、白は少しだけ苦笑した。
「もしかして、ドライブでデート終わりにして、ヒント聞きたいって事じゃないですよね?」
「え!?違う・・けど。なんかやっぱり気になるし。」
と、焦りながら返事をすると「冗談ですよ。でも・・・。」と笑いながら、白は言葉を続ける。
「そうやって僕の事を考えてくれてるのは嬉しいです。」
まっすぐ前を見て運転をしながら白はそう言った。
そんな彼を横顔を、見つめた後、しずくは同じように前を見ながら「うん。」と返事をしたのだった。