旦那様は溺愛至上主義~一途な御曹司に愛でられてます~
「俺の自己満足なんだろうけど、今日は特別な日だから祝わせて」

 優しく諭されてはっとした。

 いつ知ったんだろう? さっき叔父さんから聞いた? それとも前から知っていて、それで今日食事に誘ってくれたの?

 動揺を隠せず目があちこちへ泳いでしまう。

 店員がすぐに飲み物を運んできてくれて、互いにグラスを持つ。

「お誕生日おめでとう」

 予感はしていたはずなのに、それでも放たれた言葉に目頭が熱くなった。

「……ありがとうございます」

 たったこれだけのことで、ここまで心を揺さぶられるとは思っていなかった。

 今日は私の誕生日。二十五歳になる。

 事故に遭って以来、八年間祝うことはなかった。

 それは、私の誕生日であるのと同時に両親の命日でもあるから、どうしても祝う気にはなれなかったのだ。

 私の誕生日を祝うために外食をしようとしなければ、あんな不幸は起きなかったのだから。

 それに、毎年叔母さんが誕生日ケーキだけは用意してくれる。私はそれだけで十分嬉しかった。
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