旦那様は溺愛至上主義~一途な御曹司に愛でられてます~
初老の運転手が車を停車させると、薄暗い車内で成暁さんがこちらに顔を向ける。
「今日はありがとう」
「こちらこそありがとうございました。ご馳走にまでなってしまって……」
彼の身分を考えれば、私が財布を出すことが失礼になることくらいはさすがに理解している。
それでも申し訳ない気持ちでいっぱいだ。だって、私と過ごす時間なんてなんの楽しみもないはずだもの。
「香澄が財布を出すことを許す男なんて、男だと思わないように」
「はい?」
理解不能なことを言われて呆気に取られた。
さすがにそれはないだろう。
「まあ、今後俺以外の男と食事になんて行かせないから、聞き流してもらってもいいよ」
「――あっ……はい。え、でも、叔父さんも男ですよ?」
成暁さんは苦笑いを浮かべた。
「そんな普通に返されてもなぁ。ここはドキッとしてもらわないと困るんだけど」
いや、まあ、ドキッとはしたんだけど。
でも、これ以外に返す言葉が思い浮かばなかったんだもの。