旦那様は溺愛至上主義~一途な御曹司に愛でられてます~

 会議が終わった後は工房に戻って絵付けの作業に没頭した。余計なことは考えず、ただ目の前のことに集中することで、さざ波が立っていた心に落ち着きを取り戻すことができる。

 退勤時刻十分前になったところで同僚たちと一緒に後片付けを始め、チャイムが鳴ると同時に皆はすぐに退出していった。

 こうして決まった時間に帰れるのがいいと言う人間は多い。

 女性しかいない私たちの職場は、結婚出産を経ても目立った問題が起こることなく続けられるのがひとつの魅力だ。

 最後のひとりとなり、改めて戸締りを確認してから駐輪場向かおうとしたところで、工場で働く顔見知りの男性社員に声をかけられた。

「あれー? 吉岡さんまだ残ってたの?」

「お疲れ様です。今から帰るところですよ」

 彼は私より一回り年上で、工場での仕事を手伝いに行った時に、丁寧に説明をしてくれた人あたりのいい人だ。

「俺ももう終わりなんだけど、よかったら一緒にご飯でもどう?」

 彼にとってはなんでもないことなんだと思う。私が人を避けている噂も、さすがに工場で働く彼等の耳には届いていないだろうし。
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