旦那様は溺愛至上主義~一途な御曹司に愛でられてます~
「香澄が可愛いからいけないんじゃない?」

「意味不明です!」

 必死に訴えても、成暁さんは笑うばかりで真面目に取り合ってくれる様子がない。

「キスしてほしそうに見えたんだけど」

 薄っすら笑いながら言われて激しく動揺する。

 そんなこと……ない。……ない、はず。

 いろいろ考えていたら再び綺麗な顔が近づいてきたので、慌ててドアを開けて外へ飛び出した。

「ありがとうございました! お気をつけて!」

 またみっともない挨拶をしてしまった。もっとお淑やかに別れの挨拶をしたいと思っているのに。

 それから部屋までどうやって帰ってきたのか全く覚えていない。

 バッグの中から携帯電話の着信音が聞こえてハッとする。

 このタイミングで連絡をしてくる人間はひとりしかいない。案の定、差出人は成暁さん。

【会えて嬉しかった。ありがとう。おやすみ】

 シンプルでいて、私を翻弄するには十分過ぎる言葉たち。

 悶絶した私は両手で顔を覆って床に崩れ落ち、しばらくその状態から動くことができなかった。
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