彼と彼女の花いちもんめ~溺愛王子の包囲網~
揺さぶられるのは俺の方 side 篤樹
自宅マンション目前でスマホが震えた。
篤樹は着信画面に映し出された名前に、笑みを浮かべる。
部屋の鍵を取り出しながら急いで出た。
「もしもし?みちるから連絡くれるなんて珍しいな」
「あ、今大丈夫?」
「うん、もう帰ってきたトコ」
「遅くまでお疲れ様・・・お夕飯食べた?」
聞こえてきた労いの言葉に、自然と頬が緩む。
未だにみちるは篤樹の本当の彼女、ではない。
が、みちるはいつも篤樹の健康面を気遣ってくれる。
「伝票チェックしながらカップラーメン」
「また?野菜も食べた方がいいよ」
「なら、バランスのいいお弁当作ってよ」
僅かな期待を胸に言ってみる。
てっきり猛反発されるかと思ったが、意外にも返ってきたのは
「・・・そのうちね」
という曖昧なものだった。
「作ってくれるの?」
「・・・気が向いたら・・・」
最近、みちるの反応が以前と変わって柔らかくなってきた。
篤樹が視線を向ければ、即座に逸らそうとするのは相変わらずだが、時折みちるの方からじっと篤樹を見つめてくることがある。
好きになった?と訊けば、考えるって言ってるでしょ!と言い返されるのだが。
「なら、気が向くまで待つよ」
「・・・いつになるか知らないから・・・何年か後かもよ!」
「それでもいいよ」
素直に答えたら、みちるのほうが面食らったようだ。
「えっ・・・」
困惑気味の返事が聞こえてきた。
「でも、出来るだけ早い方がいいけどな・・・明日とか」
「何言ってんのよ・・・」
困ったようにみちるが呟く。
その声音に僅かな照れくささを感じて、ますます調子に乗りそうになる。
が、ぐっと堪えた。
「で、急に電話してくるなんて、どうしたの?なんかあった?」
「あ・・ううん・・・最近ちゃんと話出来て無かったから・・・南野さん、出張あったり、忙しかったでしょ?」
「連絡出来なくてごめん」
納期が差し迫った案件と、出張が重なって、ここ1週間まともに電話もメールもしていなかったのだ。
「違うの、それはいいんだけど・・・この間のお礼、ちゃんと言ってなかったから」
「お礼?」
「駅まで送ってくれた事・・・」
「ああ・・・そんなの、別にいいのに」
「忙しいのに、送ってくれてありがとう」
「元気になった?」
「うん、もう平気。助かりました」
「どういたしまして・・・俺から電話がかかってこなくて、寂しくなったのかと思った」
「・・・」
篤樹の言葉に、突然みちるが黙り込む。
「・・・みちる?」
心配になって呼びかけると、慌てたようにみちるが、違うの!と言った。
「れ、連絡来るかなって、思ってたんだけど・・・忙しいのも知ってたし・・・でも、あんまり先延ばしにしたくなかったか、かけただけ・・・それだけだか・・・じゃあ、お疲れ様っ」
一方的に話して、すぐに通話が途切れる。
みちるが電話を切ったらしい。
仕事を終えたスマホを見下ろして、篤樹が盛大に溜息を零す。
予想外の可愛い反応に、ますます自分の気持ちが抑えられなくなる。
白い肌に触れたい。
柔らかい髪を撫でたい。
甘い唇にキスしたい。
「・・・会いたくなるだろ・・・」
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