彼と彼女の花いちもんめ~溺愛王子の包囲網~
「に・・逃げちゃった・・・」
住宅街を駆け抜けて、一目散に家を目指す。
突然の出来事に、驚いて、どうすればいいか分からなくて、篤樹の腕を振りほどいて逃げた。
自分で自分が信じられない。
キス・・・するなんて・・・で、でも・・・
「ど・・・どんな顔して会えばいいのよーお・・・」
泣きそうになりながら、みちるが唇を噛み締める。
自宅の門扉を押し開ける頃には、煩いくらいにスマホが着信を告げた。
見なくても分かる、篤樹だ。
この状況で話なんて出来ない。
手も足も震える。
今更逃げ出した事を後悔しても遅い。
篤樹が心配している事だけは分かる。
あんな状態で放置してきたのだ。
「どーしよ、どーしよ、どーしよ・・・」
スマホを握りしめる事1分。
着信音が止んだ。
留守電に切り替わったのだ。
・・・このままじゃだめだ!!
勢い任せに画面を操作した。
「ご、ごめんなさい!大丈夫だから、ちょ、ちょっとだけ時間ちょうだい!」
勢い任せに叫ぶ。
「みちる、大丈夫?家着いた?俺・・・」
「も、もう家だから・・心配しないで・・・また連絡するからっ」
一息で言い切って、切断する。
今のみちるの精一杯。
キスが嫌だったわけじゃない。
篤樹が嫌だったわけじゃない。
すんなり、キスを受け入れた自分に驚いたのだ。
いつの間にか、ちゃんと準備していた自分の心に。
「もーやだ・・・・っ」
玄関を開けると、廊下に倒れこむ。
「どーすればいいのよー!!!」
帰るなり大声を上げたみちるに、家の中から母親が怒鳴り返してきた。
「酔ってんの!?何時だと思ってんのあんたは!」
< 16 / 30 >

この作品をシェア

pagetop