彼と彼女の花いちもんめ~溺愛王子の包囲網~
これが、恋の始まりでした side篤樹
研修室のドアが開く音がして、視線を上げると驚いたような視線をぶつかった。
それもそのはず。
廊下一面に散らばったA4サイズの資料と、それを前にしゃがみ込んでいる自分。
貴壱だったら間違いなく
「うわちゃー!派手にやったな!」
とか言うところだ。
急いでいたとはいえ、せめて順番ごとに資料を纏める位しておけば良かった。
勿論今更後悔しても遅いのだが。
「だ、大丈夫ですか?」
慌てたように出てきた女子社員が跪いて、資料を集め始める。
「すいません」
「いえ・・・っていうか、これ、この後の研修用のやつですよね?」
「そうなんです・・・けど、これじゃあ間に合いそうにないんで・・」
「あたし、こういうの得意なんで大丈夫ですよ!ちょうどクリップもあるし、今のうちに纏めちゃいましょう」
「え・・でも、仕事・・」
「あたし、この後の社内案内担当なんで、まだ時間ありますから」
抱えられるだけの資料を持って、彼女が再び研修室に入っていく。
残りの資料を拾い上げて、篤樹が後を追うと、長机の上に、先ほどの資料を種類毎に分けて並べ始めたところだった。
その言葉通り、仕事がめちゃくちゃ早い。
唖然んとしている篤樹を他所に、彼女は目次ページを確認しながら順番に並べ替えると視線を向けてきた。
「これで、大丈夫が、見て貰えます?」
「あ・・・はい!」
慌てて長机の置かれた資料の順番を確認していく。
間違いないことを告げると、早速彼女が一枚ずつ資料を重ね始めた。
指にはすでに指サックが装着済みで、滑る様に資料を掬い上げていく。
「これ、お渡しするんで、そこクリップで止めて貰えます?」
「わかりました」
促されるまま、回ってくる資料の左上をクリップで止めていく。
流れ作業はものの10分で終わり、同時に会議室で役員から社内説明を受けていた新入社員がずらずらと研修室に戻ってきた。
「ほんとに助かりました、すいません」
「いいえ。お役に立てて良かったです、じゃあ、あたしはこれで」
篤樹の謝罪とお礼に、笑顔を浮かべた彼女はすぐさま踵を返して研修室から出て行った。
「なあ、新入社員の社内案内って、何処の部署が担当してる?」
篤樹からの矢継ぎ早な質問に、斗馬が怪訝な顔をして新入社員研修の冊子を放り投げてきた。
「サンキュ・・」
「なーに?気になる子でもいたぁ?」
貴壱が面白がるように覗き込んでくるのを腕で押さえつつ、篤樹はパラパラとページを捲る。
社内案内・・・総務部(仁科)
「総務かー・・」
「え、総務部?可愛い子いた?」
篤樹の独り言に耳ざとく反応した貴壱が身を乗り出して来る。
仁科と書かれた名前を見て、途端に顔を顰めた。
「ああ、あの地味な子。なに、お前好み変わった?」
「好みっつーか・・いい子だったよ」
「・・あのな、篤樹。いい子は何処にでもいんだよ。可愛いいい子ってのがポイント高いんだろが。それより、秘書課の三峰が、合コンしろって言ってきてたぞ。お前狙いっぽい。
俺、今年の秘書課の新人狙いだからよろしくー。あ、斗馬も行くよな?木崎のお姉さまはお前がお気に入りらしいぜ?」
「お前はどこからそういうネタを持ってくるんだ?」
呆れた顔で、斗馬が言った。
「訊かなくても向こうから教えてくれんだよ・・・おっと、メールだ」
ウキウキしながら携帯を開く貴壱。
「そろそろ本気の相手、探したらどうだ?」
「斗馬、俺はね、いつでも本気」
得意げに笑みを浮かべる貴壱の肩を小突いて、斗馬が溜息を吐く。
入社してから、女が途切れたことの無い貴壱には、何を言っても無駄だと悟っているのだろう。
「・・・総務部の仁科さん、俺も何度か関わった事あるよ。丁寧ないい子だったな」
「だろ!?」
斗馬の評価に満足げに頷いて、篤樹が答える。
「あれでもーちょい華やか系なら、モテるだろうにな」
「お前の評価は聞いてねぇよ」
顰め面で篤樹が言い返す。
悪友の肩を叩いて貴壱が自信満々に答えた。
「まあ、まあ、俺に任せなさいって。仁科の情報仕入れてやっからさー」
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