彼と彼女の花いちもんめ~溺愛王子の包囲網~
そして恋が始まる
「みちる先輩、最近ハンドクリームか変えました?」
「え?あーうん」
書類を纏めていた後輩が、やっぱり!と頷く。
「すっごくイイ匂いしますもん、この伝票!優しい匂い」
「でしょ?輸入雑貨系のお店で見つけたんだ」
「これまでハンドクリームに拘りなんて無かったのに・・・どうしたんですか?」
鋭い突っ込みに、みちるが慌てて首を振る。
「別に!たまたま気に入ったのがあっただけで・・・」
「ふーん・・そうなんですねー」
後輩の視線を避けるようにパソコンに向き直る。
みちるは、ハンドクリームを塗ったばかりの両手をぎゅっと握りしめた。
手を繋ぐ相手が出来たから!とは口が裂けても言えない。
火照る頬を隠すように両手で押さえたら、優しいフローラルがほのかに香った。
“なんか癒し系の匂いがする”
みちるの指を捕まえて、唇を寄せた恋人の顔を思い出して、胸がきゅうっとなった。
落ち着け、仕事、仕事!
思考回路が蕩けて流れ出しそうになる。
それくらい、4年ぶりの恋はみちるにとって、刺激的だった。
“嫌いになるまで”という良く分からない期限付きのお付き合いを始めてから一か月。
久々の恋愛に右往左往しながら、何とか篤樹の彼女を務め上げている。
一緒にいるだけで、緊張して落ち着かないみちるに対して、篤樹は驚くべき順応性を発揮していた。
付き合う、と返事をしたその日から、早速、仁科さん、から、みちる、と呼び捨てにするようになり、営業の合間を縫っては無料アプリで連絡を入れてくる。
仮にも恋人なのだから、当然といえば当然なのだが、あまりに自然な彼女扱いに、みちるはついていくのがやっと、といったところだ。
「あ、先輩、南野さんですよ。お疲れさまでーす」
総務部を覗いた篤樹を見つけて、後輩がにこやかに挨拶をする。
最近、何かと理由を付けてはみちるに会いにくる篤樹と、いつの間にか顔なじみになったらしい。
書類を届けるだけの単純作業でも、篤樹はみちるを指名するので、後輩は篤樹が来る度にみちるを呼ぶのが日課になっていた。
「山口さん、お疲れ様」
篤樹が愛想よく答えて、後輩が嬉しそうに頬を染める。
いつものやり取りを横目に、みちるが足早に篤樹に近づいた。
「ご苦労様です」
手渡された書類を受け取りながら、声を顰めて付け加える。
「それ、渡すだけならトモちゃんでもいいんですけどっ」
「こうでもしないと、日中会えないんですけど?」
「・・・そうだけどっ」
「そっちから、うちに来るのは嫌だって言うし・・・これでも譲歩したつもりだよ」
「嫌よ!あんな悪の巣窟!」
「うわ、酷い言い方」
大げさに仰け反った篤樹の腕を叩いて、みちるが声を顰める。
「だって、すごいんだから!営業部に入った時の、女子の視線!突き刺さってくるのよ!」
「突き刺さるって」
呆れたように笑う篤樹を、みちるが強気で睨み返す。
「羨望の眼差しで見つめられる事に慣れてる人には分かんないのよ。女の執念って怖いんだから」
「じゃあ、付き合ってる事言ったほうが、優しくなるんじゃない?」
「あり得ないから!」
バッサリ切り捨ててみちるが言い返す。
交際宣言なんて、とんでもない。
明日から出社拒否したい位だ。
「あたしを営業部の餌食にするつもり?」
「俺の彼女だって言った方が、味方も増えるよ」
「そんなの望んでませんから」
フンとそっぽ向いて、受け取った書類を抱えると、篤樹が身を屈めて囁いた。
「やっぱり、みちるの傍はイイ匂いがする」
「っ!」
一気に頬が赤くなる。
慌てたようにみちるが背中を向けた。
「じゃあ、これはお預かりしておきますっ」
「・・・お願いします。山口さん、また来ます」
「はい!お待ちしてます!」
念を押すように言って、篤樹がフロアを出て行く。
付き合い始めてから、いつもこの調子でみちるはからかわれてばかりいた。
「え?あーうん」
書類を纏めていた後輩が、やっぱり!と頷く。
「すっごくイイ匂いしますもん、この伝票!優しい匂い」
「でしょ?輸入雑貨系のお店で見つけたんだ」
「これまでハンドクリームに拘りなんて無かったのに・・・どうしたんですか?」
鋭い突っ込みに、みちるが慌てて首を振る。
「別に!たまたま気に入ったのがあっただけで・・・」
「ふーん・・そうなんですねー」
後輩の視線を避けるようにパソコンに向き直る。
みちるは、ハンドクリームを塗ったばかりの両手をぎゅっと握りしめた。
手を繋ぐ相手が出来たから!とは口が裂けても言えない。
火照る頬を隠すように両手で押さえたら、優しいフローラルがほのかに香った。
“なんか癒し系の匂いがする”
みちるの指を捕まえて、唇を寄せた恋人の顔を思い出して、胸がきゅうっとなった。
落ち着け、仕事、仕事!
思考回路が蕩けて流れ出しそうになる。
それくらい、4年ぶりの恋はみちるにとって、刺激的だった。
“嫌いになるまで”という良く分からない期限付きのお付き合いを始めてから一か月。
久々の恋愛に右往左往しながら、何とか篤樹の彼女を務め上げている。
一緒にいるだけで、緊張して落ち着かないみちるに対して、篤樹は驚くべき順応性を発揮していた。
付き合う、と返事をしたその日から、早速、仁科さん、から、みちる、と呼び捨てにするようになり、営業の合間を縫っては無料アプリで連絡を入れてくる。
仮にも恋人なのだから、当然といえば当然なのだが、あまりに自然な彼女扱いに、みちるはついていくのがやっと、といったところだ。
「あ、先輩、南野さんですよ。お疲れさまでーす」
総務部を覗いた篤樹を見つけて、後輩がにこやかに挨拶をする。
最近、何かと理由を付けてはみちるに会いにくる篤樹と、いつの間にか顔なじみになったらしい。
書類を届けるだけの単純作業でも、篤樹はみちるを指名するので、後輩は篤樹が来る度にみちるを呼ぶのが日課になっていた。
「山口さん、お疲れ様」
篤樹が愛想よく答えて、後輩が嬉しそうに頬を染める。
いつものやり取りを横目に、みちるが足早に篤樹に近づいた。
「ご苦労様です」
手渡された書類を受け取りながら、声を顰めて付け加える。
「それ、渡すだけならトモちゃんでもいいんですけどっ」
「こうでもしないと、日中会えないんですけど?」
「・・・そうだけどっ」
「そっちから、うちに来るのは嫌だって言うし・・・これでも譲歩したつもりだよ」
「嫌よ!あんな悪の巣窟!」
「うわ、酷い言い方」
大げさに仰け反った篤樹の腕を叩いて、みちるが声を顰める。
「だって、すごいんだから!営業部に入った時の、女子の視線!突き刺さってくるのよ!」
「突き刺さるって」
呆れたように笑う篤樹を、みちるが強気で睨み返す。
「羨望の眼差しで見つめられる事に慣れてる人には分かんないのよ。女の執念って怖いんだから」
「じゃあ、付き合ってる事言ったほうが、優しくなるんじゃない?」
「あり得ないから!」
バッサリ切り捨ててみちるが言い返す。
交際宣言なんて、とんでもない。
明日から出社拒否したい位だ。
「あたしを営業部の餌食にするつもり?」
「俺の彼女だって言った方が、味方も増えるよ」
「そんなの望んでませんから」
フンとそっぽ向いて、受け取った書類を抱えると、篤樹が身を屈めて囁いた。
「やっぱり、みちるの傍はイイ匂いがする」
「っ!」
一気に頬が赤くなる。
慌てたようにみちるが背中を向けた。
「じゃあ、これはお預かりしておきますっ」
「・・・お願いします。山口さん、また来ます」
「はい!お待ちしてます!」
念を押すように言って、篤樹がフロアを出て行く。
付き合い始めてから、いつもこの調子でみちるはからかわれてばかりいた。