彼と彼女の花いちもんめ~意地悪王子の包囲網~
パニックに陥ったあたしの手首を強引に引き寄せて、柿谷さんが言った。

「くれる、よね?」

今度は笑顔で。

「・・・はい」

呆然として呟くあたしを見つめて、ニヤッと意地悪く微笑んだ彼は漸くあたしの手を解放した。

「じゃあ、仁科さん、連絡待ってるから」

彼の言葉が死刑宣告のように思えた。

明日の今頃には、社内中であたしの失恋とパンツ全開転倒事件が噂さてているんじゃ!?

もーやだ、まじで死にたい。

泣きそうになったあたしは、席に戻ろうとして、目の前に般若のように立ち塞がる先輩社員に気づいた。

「ちょっと、柿谷さんとご飯とかって、どういうこと!?」

あーほんとに面倒くさい。
彼女が今フリーで、彼氏探しの真っ最中な事は知っている。
そして、見てくれのイイ営業部の若手を狙っている事も。

本命以外には一切興味の無いあたしは、社内合コンには一度も参加した事が無い。
そもそも、彼以外の男は眼中にないのだ。

その彼が、あたしを選んでくれなかったんだから、もういい。

あたしの人生に恋愛は必要ない。

これからは、自分の為に自分を磨いて生きていくのみだ。
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