彼と彼女の花いちもんめ~意地悪王子の包囲網~
彼のくれた一言がどれくらいあたしを救ったかなんて、
きっと他の誰にも分からない。

その後、悪ガキどもがなんと言って退散したのか、あたしは彼にお礼を言ったのか
何も覚えていない。

まるで夢の中の出来事みたいで、記憶にないのだ。

ただ、分かるのは、彼の優しさが、あたしの心を守ってくれたことだけ。

それだけで、十分だった。

そして、その2週間後、祖父が突然の心臓発作で死去して、実家を継ぐことになった
我が家は慌ただしく引っ越しをする事になり、
彼とはそれ以降で会う事もなかった。


ただ、彼との出会いがきっかけで美意識が高くなったわけではない。
あたしは太ったままだったので、転校先の学校でも、雌豚ゴリラとあだ名を付けられ
とことん男子とは疎遠の中学生活を送り、
何度もリバウンドをしながらなんとか中学三年生で、肥満一歩手間まで体重を落とした。

これは別に、自分の意識どーこーではなく、ただ小児糖尿病の心配をした両親の食事制限と運動支援によるものだ。

そして、二度目の恋。
中学三年間、ほのかに憧れていた吹奏楽部の男の子に、卒業式に決死の告白をして、見事に玉砕してから、本気で生まれ変わろうと決意し、ひたすらダイエットを頑張って
遅咲きの女の子デビューを高校で飾ったのだ。


だから、入社式で彼の名前を耳にしたときには、これは運命だと確信した。

これまでの日々は、全て彼と再会するためだったんだと。


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