彼と彼女の花いちもんめ~意地悪王子の包囲網~
挑む様な気持ちでやってきたあたしは、拍子抜けしたまま店内へと案内された。

怒るつもりだったのに、そんな気持ちはとっくに萎んでしまった。
片手でつかめるくらいの小さな花束。
オレンジのガーベラを基調に明るい色でまとめてある。
可愛らしい雰囲気のそれは、あたしの好みど真ん中だった。

部屋に戻ったら、ベッドサイドに飾ろうと決める。

「そんなに喜んでくれるなら、買ってきた甲斐あるなー」

花束から視線を逸らさないあたしに、柿谷さんが声を投げてきた。

「ありがとうございます」

この花束は素直に嬉しかった。

お礼を口にしたあたしに、柔らかく微笑んで柿谷さんが頷く。

「お詫びってのは、待たせたお詫びと、失恋をからかったお詫び、だから」

「ス、スカートの中見たことは入ってないんですかっ」

小声で問い返したら、あれは事故だから、と流された。

と、あたしはここで初めて本日の議題を思い出す。

花束はバックの上に大事に乗せて、彼の方へと身を乗り出した。

向かい合うタイプのテーブルでは無くて、窓辺に面したカウンタータイプの席に案内されたので、彼に向き直ると、自然と体を捻る事になる。

真正面で向かい合うのが苦手なあたしとしては、横並びの席は有難かった。

数分なら正面でも何とか笑顔を浮かべられるが、長時間になると笑顔でいられる自信がない。
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