彼と彼女の花いちもんめ~意地悪王子の包囲網~
「あたし、もう誰も好きになりませんから、恋愛は不要です」

事実、中学の時ほのかに好きになったあの男の子以来、誰にもときめかなかった。

そもそも、男嫌いのあたしに、恋愛は不要なのだ。

それでも、と思えたのは、南野さんなら、夢を見られるかと思ったから。

彼ならきっと、あたしを傷つけたりしない、物語に出てくるお姫様みたいに、あたしを大事にしてくれるはず。

そう、思えたから。

「そうやって言えるのは今のうち、家帰ったら泣くんだろー?
独りで泣くのは惨めだぞ、やめとけって。
女の子は独りで泣いちゃ駄目だよ。
こうやって、涙を拭いてくれる男がいる場所で泣きなさいよ」

ふいに伸ばされた手があたしの目尻をきゅっと拭う。

泣いてなかった。

これまで、一度だって人前で泣いた事は無い。

泣くふりをした事はあっても、本当に泣いた事は無かった。

暗黒時代は、小錦!と馬鹿にされて泣きそうになるたび、小錦が泣くぞー!と囃し立てられて、そのたび涙が引っ込んだから。

痩せてからは、悔しいとは思っても、泣きたくなることはなかった。

事実、南野さんに失恋したときも、泣いてやる!と意気込んだ直後にあんなクソ恥ずかしい目にあったし。

少女漫画のようなシチュエーションには憧れる。
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