彼と彼女の花いちもんめ~意地悪王子の包囲網~
「・・・柿谷さんのせいです」

ちょっとのはずが、大号泣になったのは、目の前のこの男が悪い。

あたしの頭を撫でたりするから。

腫れぼったい目を見られたくなくて斜め後ろを歩く。

と、一瞬立ち止まった彼が、僅かに後ろを振り向いた。

小さく微笑む。

「いいよ」

「・・・っ」

あっさり受け入れられてしまえば、あたしは黙り込むしかない。

なんでそんな慣れてんのよっ!!

思えば、初対面の時もあっさりあたしを助けたっけ。

女慣れしていると、相手がテンパってても、泣いてても動じないんですか、そうですか。

恋愛経験皆無のあたしには全く想像がつかない。

それでも・・・

「ご馳走様でした」

涙が収まったあたしの目の前に差し出されたのは、ノンアルコールカクテルのシンデレラ。

あたしが最初に憧れた、完全無欠のお姫様。

「干からびる前に飲めば?」

そういって差し出されたグラスを、遠慮なく一気に煽って、あたしは席を立った。

ジュース一杯だけど、一応人として言っとかなきゃいけない。

不貞腐れてお礼を口にしたあたしを見て、柿谷さんがすぐ先にある看板を指さした。

「腹減っただろ、ここなら、気にせず行けるんじゃない?」

チェーン店のラーメン屋。

中をチラッと覗けば、中年のサラリーマンが数名カウンター席に腰かけている。

コッテリとんこつが人気のお店なので、女性客が少ないのだ。

暗黒時代のあたしの大好物でもある。

折角可愛い格好してんだから、イタ飯とかにしろよ馬鹿!

そうは思って見るものの、とんこつの濃ゆい匂いには、確かに惹かれる。

立ち止まったあたしが、答えを口にする前に、先にあたしのお腹が空腹を訴えた。

柿谷さんは大笑いして、あたしに断りなく店のドアを開ける。

「はい、決定―」

「っちょ!ちょっと!!」

仕方なく、あたしも後を追う事になってしまった。



仕事帰りのOLとしては、物凄く色々間違っている気がするが、仕方ない。

勘違い女としては、上々のお夕飯と言えるだろう。

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