彼と彼女の花いちもんめ~意地悪王子の包囲網~
あたしは簡単に泣いたりしてはいけない。
いついかなる時でも、女性らしく清楚で、美しく。
どこかの歌劇団の校訓のようだが、あたしはそれをモットーとしている。

だから、自分を磨くためには時間も労力も惜しまない。
どんなに疲れていても念入りに肌も体も手入れをする。

そして、極力スカートを履く様に心がけている。
パンツが嫌いというわけではない。
が、こだわりがあった。

身長が思いのほか伸び始めた頃は、スカートを履くことに抵抗を覚えたりもしたが
あたしは、とにかく、可愛い格好がしたいのだ。

だから、今日も無敵の膝丈フレアスカートだ。

それが、裏目に出た。
フレアスカートの裾から見えるようになっているレースが、植木の枝に引っ掛かったのだ。
下手に引っ張るとレースが千切れる。
決してお安くはないブランドのスカートだ。
給料の全てが衣装代と化粧品代に代わっているあたしとしては、決して無碍に扱えない代物。

ふんわり広がったスカートは植木の上に被さるようになっており、うかつに動くことも出来ない。

それでも少しずつスカートを持ち上げて移動していたあたしに、背後から突然声がかかった。

「なーにやってんの?」

聞こえてきたのは異性の声だ。
あたしは迷うことなく笑顔で振り向いた。

「・・・実は、ピアスを植木の中に落としてしまったみたいで・・・」
< 3 / 80 >

この作品をシェア

pagetop