彼と彼女の花いちもんめ~意地悪王子の包囲網~
男の考察
「はい、貴壱。お届けモノデース」

机にドンと置かれた紙袋を見て、柿谷は顔を顰めた。

買い物を頼んだ記憶もなければ、彼からこんな大物を受け取る理由も思いつかない。

「なんだ、コレ?」

「仁科さんから預かったけど」

「・・・あーそう」

その名前を聞いて合点が行った柿谷が、フロアの入り口を振り返る。

が、当然そこに依子の姿はない。

「もうとっくに帰ったよ。お前何したの?
まさか、あの子にまでちょっかい出すつもりじゃないだろうな」

「今前向きに検討中~。ほら、俺今寂しいおひとり様だしー」

茶化すように笑った柿谷を睨んで、南野が眉を顰める。

「良い子なんだから、不用意に傷つけるなよ」

「なんだー、妙にあの子の肩持つなー、早速浮気かよー、おいおい」

「馬鹿、違うよ。申し訳ない事したからって、お詫びだってさ・・・
勘違いは頂けないけど、ちゃんとした良い子だよ、あの子。
俺、美人てもっと鼻にかけるのかと思ってたけど、告白してきたあの子も、
今のあの子も、どっちも素直で好感持てたし」

「へー・・・素直でねぇ・・」

先日の醜態を色々と思い出して、柿谷はちいさく笑う。

これを篤樹に伝えるのはフェアじゃないし、こんな面白いネタを誰かにバラすなんて勿体ない。

それに・・・

「可愛げがないとこが可愛いのは認める」

「はあ?誰が」

「仁科依子」

「お前、彼女のどこを見てそれ言ってんだよ」

社内の男連中が口を揃えて今年の新入社員の中でダントツ美人と騒ぐ仁科依子は、
高嶺の花と謳われながらも、仕事はきちんとこなすし、愛想は良いし、女性社員からの受けもよいと満点の評価を受けていた。

誰に聞いても彼女の“可愛げが無い”ところなんて見つからないだろう。

だけれど。

「俺は知っちゃったんだよなーぁ」

机の上の紙袋を覗いて、柿谷が笑みを深めた。

クリーニングされたスーツが入っている。

先日のラーメンの帰り道、彼女がまだ腫れてる顔隠すのに使うから、と言い訳して持って帰ったものだ。

『“可愛げが無い”なんて、ほぼ10年ぶりに言われましたっ』

思い切り剣呑な表情で言った依子の、腫れぼったい瞼と、涙のせいで赤くなった頬が、

その表情全部が可愛いと思った事は、誰にも秘密だ。

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