彼と彼女の花いちもんめ~意地悪王子の包囲網~
これだからチャラ男は!
“わざわざ篤樹に届けさせたのは、篤樹に会う口実?
それとも、俺には会いたくなかったって事、どっちかなー?”

“会う理由はありません”

“俺が会いたいっつったら、どーすんの?”

“会いません”

“会いに行くって言ったら?”

“困ります”

“きみは勝手に困ってなさい”

「はあ!?」

スマホを睨みつけて、あたしは素っ頓狂な声を上げた。

メアドを教えた事が裏目に出た。

って素直に返事返してるあたしもあたしだけど、返信しなかったら、いつまでもメールが届く気がするのだ。

突然のあたしの奇行に、先輩社員が怪訝な顔をする。

「ど、どうしたの、仁科さん、何か問題あった?」

「あ、いえ。すみません、何でもないですー」

慌てて愛想笑いを浮かべて、あたしはスマホを机の引き出しに放り込む。
業務画面に向き直りながら、盛大に舌打ちした。

意味わかんない、っつーか馬鹿か!?
分かれよ、普通あの状態で他人経由でスーツ返されたら、会う気ないって思うだろ馬鹿。
どんだけ頭悪いんだあの男はー!!!
地団駄踏みそうになる足をぐっと踏ん張る。

あんな男に関わってたらあたしの黒歴史がカムバックしてきそうだ。

羞恥心で死にそうになる心を何とか奮い立たせてキーボードを叩く。

思い出すのもおぞましい記憶の数々。

失恋直後にフォローらしき事をして貰ったのは感謝する。

けど、泣かせたのもあんただし、怒らせたのもあんただろが!!
あたしはもう一刻も早く忘れたいのに!!

南野さんへの淡い恋心だけを胸に、これからより自分磨きに命を懸けるつもりなのに!

とんこつラーメンの翌日は朝抜き、昼は野菜ジュースのみで我慢した。

自分を甘やかせばどうなるか、あたしが一番良く知っている。

理想体型を手に入れるまでの地獄の日々を思い出して、苦い思いがこみ上げてくる。

もう、あの頃のあたしには戻らない!
小錦も関取も遠い過去!
失恋は肉布団ともにトイレに流してきれいさっぱり!

今のあたしの次なる目標は、引き締め効果のあるボディソルトで太ももとお腹周りを引き締めることだ。

駅前の百貨店の化粧品フロアに、終業と同時に駆け込むことだけを念頭に置いておく。

と、そんなあたしの仕事を邪魔する声が聞こえてきた。

顔を見なくても分かる、柿谷さんだ。



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