彼と彼女の花いちもんめ~意地悪王子の包囲網~
「困ってんの?」

開口一番メールの内容を指摘された。

仕事のついでを装う為か、手には書類の束を持っている。

柿谷さんは管理部の入り口のドアに背中を預けて、楽しそうにあたしを見下ろした。

身長164センチのあたしは、どんなに高くてもヒールは7センチと決めている。

洋服とのバランスや歩きやすさを考えたうえでの選択だ。

けれど、今日ばかりはその選択を死ぬほど後悔した。

15センチヒール履いて見下ろしてやりたいっ!!!!

ギリギリと奥歯を噛み締めて反撃の方法を考える。

先輩社員の視線が煩いので、ちょっと抜けます、と告げて彼を引っ張って入口まで移動した。

が、失敗かもしれない。

どこに行ってもこの人は目立つ。

あたしも、自分の容姿が変わってから多少なりとも自分に自信を持っている。

苦労の末手に入れたスリムボディと、苦心して練習を重ねた可愛い系メイクだ。

でも、そんな作り物とは違う、独特の雰囲気が彼にはある。

人を惹きつける、何かが。

よく芸能人にはオーラがある、というけれど、きっとそんな感じのものだろう。

背が高くて顔が良いと、オーラも手に入れられるのか?
腹立たしさを通り越して呆れた気持ちになりながら、まじまじと彼を見上げる。

と、彼が徐に唇を動かした。

「なに、見惚れてんの?」

小声で指摘されて我に返る。

「なっ!!自意識過剰もいい加減にしてください」

「まーた、そうやって強がる。あの返信間違いだな」

「何がですか」

「困ってるんじゃなくて、怒ってて、ちょっと俺に惹かれてる」

当たってるだろ?と笑顔で言われて、あたしは絶句した。

どこまでポジティブなんだこの男は!!

「何とかして柿谷さんを見下ろしてやりたいと思っただけですっ」

「ベッドでなら、いくらでも見下ろさせてやるけど?」

「・・・っふ、フザケないで下さい!」

信じらんない!!何て事を言い出すのか!!

真っ赤になってあたしが言い返す。

ベッドとか、あり得ないから、そもそもなんでそっち方向に話が流れんだよ!

これだから男はー!!!

眉を吊り上げて睨み付けると、柿谷さんが揶揄するように言った。

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