彼と彼女の花いちもんめ~意地悪王子の包囲網~
無言のままであたしの前を通り過ぎる。
ほっとしたのも束の間、男はあたしの目の前で、マンホールに嵌まったままのパンプスを拾い上げた。

余計な事すんなよ!馬鹿!!!

とにかくここは放っておいて欲しいのに!!

こっちの心の声はまるっと無視しして、彼はあたしの元まで戻ってくると、パンプスを地面に置いて、右手を差し出した。

「どーしたらいい?」
「は?」

ポカンと口を開けるあたしに、彼はもう一度言った。

「だーから、どーやって助けたらいい?無理やり引っ張っていいんかって話」

途方に暮れるあたしの腕を掴んだ男を、思い切り睨み返す。

「絶対ダメ!!」

そんな事をしたらスカートが!!!

必死の形相で言い返したあたしの顔を見て、彼はあっさり頷いた。
そして、植木の中へと踏み込んできた。


これが、あたし、仁科依子と、彼、柿谷貴壱の、所謂運命の出会い、という事になる。

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