彼と彼女の花いちもんめ~意地悪王子の包囲網~
これも恋と呼べるのだろうか?
馴染みの居酒屋の一角で、焼酎のグラスを前に斗馬が、貴壱に向って窘める様に言った。
「お前が誰と遊ぼうが構わんが、相手は選べよ」
「え、なに、貴壱変な女に引っ掛かった?」
篤樹がビールグラスをテーブルに戻しながら問いかける。
当の貴壱はちらっと視線を天井に向けて無言を通した。
「引っかかったんじゃない。引っ掻けたんだ」
「なんでそれを斗馬が知ってるんだよ・・・あ、まーた社内の子?」
「仁科依子」
斗馬が珍しくフルネームを覚えている女性社員だ。
その名前を聞いた途端、篤樹が眉を跳ね上げた。
「タカ!」
「なんだよ。うっせぇなぁ」
「あの子はやめとけって言っただろ!何やってんだよ」
「酔わせて持ち帰ったらしい」
「はあ!?」
目を見張った篤樹が剣呑な視線を貴壱に向ける。
「お前な・・・」
「持ち帰ってねぇよ。ホテルまで送ってった、それだけだ」
「嘘吐け!お前に限ってそれは無い」
親友にキッパリ断言されて、貴壱は肩を竦めた。
「嘘じゃねえよ。俺ともあろう者が、手も足も出せずに帰ったの」
「・・・でも・・あの子怒鳴り込んで来てただろ」
「誤解だよ。酔って寝ちまったから、そのままホテル取ってやって、俺はそのまま帰った。置手紙しといたのに、気づかずに、朝起きてパニックになったの」
「貴壱が・・・ホテル取って何もせずに」
「そのまま帰ったって・・?」
斗馬と篤樹が顔を見合わせて微妙な顔をする。
「具合でも悪かったのか?」
「風邪でも引いてたとか?」
「違ぇよ!!」
貴壱がすかさず言い返す。
「俺も、そのつもりだったんだけど・・・まあ、いろいろあって・・・」
「で、その後もちょっかいかけてるのはなんで?
やっぱり、気に入ったから?」
篤樹が頬杖をついて面白そうに顔を緩める。
女好きを地で行く貴壱が、据え膳に手を出さないとは。
貴壱の女性遍歴を知っている二人にとって、これはまさに青天の霹靂だった。
食指が動かなかった女に、引き続きアプローチを続けるなんて、あり得ない。
貴壱にとって女性は、抱けるかどうか、がすべてだ。
そういう対象になる女と、ならない女で、バッサリ分ける。
仁科依子は、美人でスタイルも良いが、貴壱のお眼鏡には適わなかったということになる。
が、貴壱は未だ彼女に興味を示している。
「気に入ったっつーか・・・なんか、興味湧いてさ」
「興味?」
斗馬が続きを促した。
「俺は恋愛対象に入らないんだと」
「え・・・貴壱が!?」
篤樹がぎょっとなったのも無理はない。
社内のイケメン三銃士と呼ばれる彼らの中で一番人気を誇るのが貴壱だ。
つまり、社内の女性社員のほぼ全員が憧れる相手を前に、恋愛対象外と宣言した事になる。
「篤樹に振られた事を引き摺ってるんだろ」
「俺、そんな酷い言い方したかな!?」
「いや、そうじゃないだろう」
真剣に悩み始めた篤樹の肩を叩いて、斗馬が笑う。
「よっぽどお前が好きだったんじゃねぇの」
他人事のように言って、貴壱はビールを煽った。
「おかげで、失恋の痛手につけ込んで、美味しい思いするつもりが苦戦中」
「美味しいって・・・いい加減な気持ちであの子にちょっかいかけるなって」
篤樹が念を押すように言った。
「お前が誰と遊ぼうが構わんが、相手は選べよ」
「え、なに、貴壱変な女に引っ掛かった?」
篤樹がビールグラスをテーブルに戻しながら問いかける。
当の貴壱はちらっと視線を天井に向けて無言を通した。
「引っかかったんじゃない。引っ掻けたんだ」
「なんでそれを斗馬が知ってるんだよ・・・あ、まーた社内の子?」
「仁科依子」
斗馬が珍しくフルネームを覚えている女性社員だ。
その名前を聞いた途端、篤樹が眉を跳ね上げた。
「タカ!」
「なんだよ。うっせぇなぁ」
「あの子はやめとけって言っただろ!何やってんだよ」
「酔わせて持ち帰ったらしい」
「はあ!?」
目を見張った篤樹が剣呑な視線を貴壱に向ける。
「お前な・・・」
「持ち帰ってねぇよ。ホテルまで送ってった、それだけだ」
「嘘吐け!お前に限ってそれは無い」
親友にキッパリ断言されて、貴壱は肩を竦めた。
「嘘じゃねえよ。俺ともあろう者が、手も足も出せずに帰ったの」
「・・・でも・・あの子怒鳴り込んで来てただろ」
「誤解だよ。酔って寝ちまったから、そのままホテル取ってやって、俺はそのまま帰った。置手紙しといたのに、気づかずに、朝起きてパニックになったの」
「貴壱が・・・ホテル取って何もせずに」
「そのまま帰ったって・・?」
斗馬と篤樹が顔を見合わせて微妙な顔をする。
「具合でも悪かったのか?」
「風邪でも引いてたとか?」
「違ぇよ!!」
貴壱がすかさず言い返す。
「俺も、そのつもりだったんだけど・・・まあ、いろいろあって・・・」
「で、その後もちょっかいかけてるのはなんで?
やっぱり、気に入ったから?」
篤樹が頬杖をついて面白そうに顔を緩める。
女好きを地で行く貴壱が、据え膳に手を出さないとは。
貴壱の女性遍歴を知っている二人にとって、これはまさに青天の霹靂だった。
食指が動かなかった女に、引き続きアプローチを続けるなんて、あり得ない。
貴壱にとって女性は、抱けるかどうか、がすべてだ。
そういう対象になる女と、ならない女で、バッサリ分ける。
仁科依子は、美人でスタイルも良いが、貴壱のお眼鏡には適わなかったということになる。
が、貴壱は未だ彼女に興味を示している。
「気に入ったっつーか・・・なんか、興味湧いてさ」
「興味?」
斗馬が続きを促した。
「俺は恋愛対象に入らないんだと」
「え・・・貴壱が!?」
篤樹がぎょっとなったのも無理はない。
社内のイケメン三銃士と呼ばれる彼らの中で一番人気を誇るのが貴壱だ。
つまり、社内の女性社員のほぼ全員が憧れる相手を前に、恋愛対象外と宣言した事になる。
「篤樹に振られた事を引き摺ってるんだろ」
「俺、そんな酷い言い方したかな!?」
「いや、そうじゃないだろう」
真剣に悩み始めた篤樹の肩を叩いて、斗馬が笑う。
「よっぽどお前が好きだったんじゃねぇの」
他人事のように言って、貴壱はビールを煽った。
「おかげで、失恋の痛手につけ込んで、美味しい思いするつもりが苦戦中」
「美味しいって・・・いい加減な気持ちであの子にちょっかいかけるなって」
篤樹が念を押すように言った。