彼と彼女の花いちもんめ~意地悪王子の包囲網~
すでに頭の中は飽和状態。
あたしを待ってたんじゃないって言ったのに、それも嘘?

もうこの人ほんとに何考えてんの?
意味わかんないし。

途方に暮れてしまいそうなあたしは彼に掴まれた手首へと視線を落とす。

決して緩くはない力。
けれど、痛みを感じる程ではない。
絶妙の力加減。
あたしが振りほどけない程度の拘束力。

「仁科さんが、どんな子か、知りたいから」

「・・・」

聞こえてた真摯な言葉に、あたしは思わず口を噤んだ。
いつもの軽口とは打って変わって静かな口調。

ふざけているのかと思えば、急に真顔になったり。

ちっとも柿谷貴壱という人物がつかめない。

いや、掴む必要なんてないんだけど。

「俺にも、きみを口説くチャンスをくれる?」

「あ、遊び相手としてですか?」

「篤樹にも釘刺されたし、そんなつもりはないけど。
俺なりに色々考えた結果?」

「南野さんが?」

彼と南野さんと杉本さんが、親友同士だということは知っている。
でも、彼らの間で、あたしがどんな風に話題になっているのかなんて、知る由も無い。

柿谷さんの口から、面白おかしく伝えられていたらどうしよう?
只でさえ、妙な勘違いして、揚句暴走して自滅するような、イタイ処女なのに。

「南野さん、何て言ってたんですか!?
あたしの事、変な子だって思ったとか!?
感じ悪いとか思われてたらどうしよう!!」

不安をそのまま口にしたら、柿谷さんが呆れた様に肩を竦めた。

「はい、ストップ。お得意の勘違いで突っ走んのはやめて。
篤樹は、べつに君の事、変な子とも、感じ悪い子とも言ってないから」

「え、じゃ、じゃあ、なんて!?
っていうか、柿谷さん、あたしの事なんて言ったんですか!?」

「俺がいま気になってる女の子」

「なんて事言うんですか!?」

「事実だし」

「そんな誤解を生む様な言い方っ」

「誤解って、どう誤解すんの?」

「だ、だから、柿谷さんが、あたしを好きとか、そういう」

「だから、そう言ってる」

「・・・はあ!?」

今度こそあたしは素っ頓狂な声を上げた。

好き!?
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