彼と彼女の花いちもんめ~意地悪王子の包囲網~
始まる、攻防戦
一度相談癖がつくと、少々の事でも報告せずにはいられない。

何か進展したら、絶対教えなさいよ!と松井さんにきつく言われていたあたしは、
素直に今回の出来事を説明した。

学生時代の部活動で培った縦社会の厳しさが身についているせいか、先輩の言葉には絶対に逆らえないのだ。

「それはまた、思いっきり流されたわねー」

「それは言わないで下さい・・」

昼休みの食堂の片隅で、あたしはぼやいた。

自分でも自覚しているけど、だって、最強のカードを2枚も彼は持っているのだ。

南野さんと、この間の大失態。

あたしが逃げ切れるわけがない。
勿論、どちらも伏せて、強引に食事に誘われた、と説明した。

「あたし、男の子から手紙を貰ったり、付き合って欲しいってさらっと言われた事はあるけど、ああいうタイプに当たった事なかったんです!」

学生時代に知り合った男の子たちは、皆とても素直だった。

あたしが目に涙を浮かべて、ほんとにごめんなさい、と申し訳なさそうに断ればあっさりと引き下がってくれたのだ。

あんなしつこくて、強引な男は知らなかったのよ!!

「自分に自信があるのよね、彼の場合。
大抵の女の子は彼を好きになるから、実績があるぶん強気に出れる。
しかも、相手は子ウサギ同然だもんねー。
狩人にしたら、格好の標的でしょう」

「ちょっと!松井さん、とんでもない例えしないでください!」

「え、でもすごい分かり易いよ、仁科ちゃん。
この状況まさにそれだもんー」

今村さんが笑顔で付け加える。
最近では、この三人で昼食を取ることが多くなっていた。

昼休みはさっさと食事を終えて、完璧にメイク直しをして午後に備える、というのが
これまでのあたしの日課だったのに、今ではメイク直しもそこそこに話に夢中になっている自分がいる。

きっと、こういう事態にならなかったら、この二人とも仲良くなることは無かった。

まだ慣れないけど、女同士というのは結構心地よい。

「柿谷さんが、好きだって言ったんでしょ?
これは、もう本気ってことよー。
遊びじゃない、ちゃんとした恋愛が出来る相手なら、仁科さんだって問題ないわけじゃない。
いっとけば?」

「他人事だと思って・・・」

「他人事よー、当然でしょう。でも、ああいう男が本気で女の子追いかけるの、傍で見てると楽しいし」

「ですよねー!しかも、非の打ちどころのない美男美女なら、ドラマ見てるより面白い」

「面白く無いです、とにかく、あたしは柿谷さんはタイプじゃないんです」

「タイプ何て変わるもんよー?」

「そうそう、好きになった相手がタイプになるよー」

「あたしはそんな事ないですからっ」
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