彼と彼女の花いちもんめ~意地悪王子の包囲網~
「・・はい・・」

「俺もどーしていいか分かんなくて、困ってるんだよ」

「え?」

「だから、寝る目的じゃない女の子と恋愛したことなんて、殆どないからさ」

すっぱり切られて、あたしは答えに困る。

そういう対象じゃない相手、というところに、ほっとしてよいのか、そうでないのか
正しい対処方法が分からない。

「適当じゃない恋愛って、どんなもんか、知らないし」

「なんか、もう返す言葉もないんですけど」

「あ、やっぱり?でも、付き合った子はちゃんと大事にするけどね。
女の子は皆可愛いし、柔らかいし、気持ちいいし」

気持ちいい、にだけはどうしても頷けずにあたしは視線を彷徨わせる。
彼が、どういう恋愛をしてきたか、この言葉で完全に分かった。

「適度に可愛くて、男のあしらい方知ってて、体の相性が良くて。
そういう子は、付き合ってるときは、申し分ない位楽しくて、満足するんだよ。
勿論、別れる時もこじれる事なんて無い。
お互いじゃあね、って言って、あっさり離れる。
だから、あんまり記憶に残らないし、また会おうとも思わない。
でも、きみはそうじゃなかった。
寝た訳でもないのに、なんでかまた会いたいと思った。
篤樹を好きだって言って、叶わなくてもいいとか、無謀な片思いに胸張って。
はっきり言って、そういう経験ない俺には、その行動自体、理解不能なんだけど。
それでも、こうやって、触れたくなるんだ」

伸ばされた右手が、あたしの長い髪を絡め取る。
柿谷さんが、目を細めて笑った。
この雰囲気に流されてしまうのが怖い。
あたしは当初の予定を思い出して、彼の方を真っ直ぐ見つめる。

「み、南野さんは、あたしの事なんて言ったんですか?
それを、聞きたくて来たんですけどっ」

「ああ、篤樹ね」

届いたビールを煽って、柿谷さんがちらりとあたしを見て、視線を外した。
いつも、鬱陶しい位見つめてくる彼にしては珍しい素振り。

「・・・?」

首を傾げるあたしを見ないようにしたまま、柿谷さんが言った。

「良い子だって、言ってたよ。
凄く一生懸命自分の事を好きだって伝えてくれて、他に好きな子がいるって断ったのに、頑張って下さいって、
応援までしてくれたって。
あんないい子は、自分には勿体ないってさ」

「・・・ほんとに・・?」

「ここで嘘吐くほど酷い男じゃないよ、俺は」

不貞腐れた彼の言葉が、まぎれも無い真実だと物語っている。
あたしは、思わず両頬を押さえた。

好きになっては貰えなかったけど、そんな風に言って貰えたなんて。
好きでいて良かった。
やっぱり、南野さんは素敵な人だ。

出来れば、本人から言われたかったけど、もしそんな事になったら、きっと嬉しすぎて倒れてしまいそうなので、これで良しとする。

失恋にだって意味はある。
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