彼と彼女の花いちもんめ~意地悪王子の包囲網~
あたしが、前を向いて歩ける力を、彼はくれるから。

言いようのない高揚感でいっぱいになって、ジンジャエールを飲む。
喉を擽る炭酸の冷たさが、幾分か気持ちを落ち着かせてくれた。

「ありがとうございますっ」

「・・そこでお礼言われるのって、どうなの?」

呆れた様に柿谷さんが言った。

「だ、だって・・嬉しかったから」

きっと、彼じゃなきゃ聞き出せなかったセリフだ。
南野さんは、気の置けない柿谷さんだから、あたしの事を話した。

独り盛り上がるあたしを無言で見つめて、柿谷さんがビールグラスを横に退けた。

「・・・俺も」

「はい?」

「俺も、そういう顔見たいんだけど」

「え?」

「篤樹じゃなくて、俺が仁科さんを喜ばせたいんだけど」

「え・・っと・・」

いきなりそんな風に言われても困るし。
あたしが喜んだのは、南野さんに関する事だったからで・・・あたしが、柿谷さんに関する事で、ここまで大喜びする事があるとは思えない。

「きみの言う、真面目で一途な恋愛っていうのを叶えられたら、俺を好きになってくれるのかな?」
「・・わかりません・・そんな恋愛無いって言う人もいるし・・」

「うん、そうだろうね」

きっと彼が経験してきた恋愛と、あたしが憧れる恋愛は対極のところにある。

「じゃあ、俺が勝手に仁科さんを好きになる事は、許してよ」

「え!?」

「他の誰にも目移りしなくて、真っ直ぐ自分だけを見ていてくれる男が理想なんだろ?
なら、俺がその理想を叶えてやるよ」

「出来るわけないでしょ!?」

さんざん遊んできた男が何言い出すのよ!!
社内の目ぼしい女子社員は、ほぼ彼とお近づきになっているというのに。

「出来るよ。もう、他の女とは連絡取らないから」

「そ、そんな事したって、あたしは好きに・・」

「なるよ」

「なんでそれをあんたが決めんのよ!?」

あたしは眉を吊り上げて言い返す。

人の気持ち勝手に決めんな!馬鹿!!

「俺の経験上?」

こう言われれば、何も言い返せない。
だって彼には実績がある。
数多の女の子の心を蕩けさせてきた恋愛経験がものをいう。

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