彼と彼女の花いちもんめ~意地悪王子の包囲網~
赤くなった顔を気付かれた!!

あたしは咄嗟に視線を外して、頬を押さえる。

貰ったものだし、つけるのが礼儀だと思ってコレを選んだけど、うかつだったかもしれない。

このデザインを選んだって事は、彼がいつもあたしを気にかけているという証拠で、
そして、このピアスを受け取って喜んだあたしは、そんな彼の好意を受け止めたように見える。

違うけど、ピアスに関してそうだけど!でも、違うし!

「きみの事だけ考えて、選んだからさー。
気に入らないって突き返されたらどうしようかと思った」

「そんな人でなしな事しませんよ」

「それは分かってたけど・・・片思いって色々悪い想像するんだなー・・・
これを渡すときの事、散々考えて、最悪の事態も想定した。
傷つくことも前提で、好きになるんだ、みんな」

さも不思議そうに柿谷さんが呟いて、黒ビールを飲む。
あたしは、何も言えなかった。

実際に、あたしがそうだったからだ。

良い場合と悪い場合、両方想像して、覚悟して、告白して、玉砕した。
誰かを好きになったら、必ず経験する事だ。

彼にとっては、初めてだっただけで。

でも、柿谷さんの中の初体験を引き起こした原因が自分だと思うと、なんとも言えない妙な気分になった。

そして、これまであたしに告白してくれた男の子たちの事を思う。
みんな、同じような気持ちを抱えて、思いを打ち明けていたんだろう。

男なんて南野さん以外はみんな同じ、クズ同然。
過去の苦い経験から、そう決めつけて、見向きもしなかったあたし。

そして、突っぱねても、逃げても、追いかけてきて、振り向かせると言った目の前の男。

「その点については・・・ちょっとは、あたしの方が教えられると思いますけど」

「篤樹の話ならやめて。聞きたくないから」

あっさり拒否して、柿谷さんがパスタに手を伸ばす。
あたしはすっかり冷めたシーフードピザを齧った。

「あたしが、南野さんの事話せるのって、ココだけなんですけど・・」

ちょっとくらい聞いてくれてもいいのに、なんて思ってしまう。
と、柿谷さんが呆れたような顔をした。

「目の前に好きだって言ってる男がいるのに、別の男の話するわけ?」

「あー・・ごめんなさい」

たしかに、それは無いよね、うん・・

でも、彼の言う口説き文句は、どれも今一つ信用できなくて、だから、つい南野さんの事を話してしまうんだけど。

「俺の事、好きになる?」

「・・・あたしの事考えてピアス選んでくれたところは」

慎重に答えたあたしを見つめて、彼が目元を和ませた。

「こういうことでも幸せになれるんだなー」

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