彼と彼女の花いちもんめ~意地悪王子の包囲網~
りえと呼ばれた美人が、意味深な笑みを浮かべてこちらを見た。

「もう遊ぶのは止めたの?」

「そうだな。もういいわ、そういうのは。

今はこの子で手いっぱいだから」
柿谷さんが、そう言って、並んで座るあたしの肩を抱き寄せた。

だから!!そういう急接近とかやめて!!
マジで死ぬから!!!

真っ赤になって狼狽えるあたしを無視して、りえさんは驚いた表情を見せた。

「へー。一途になったもんねー」

「まだ彼女じゃないけど」

「うっそ、手こずってんの!?」

「大苦戦中」

「皆が聞いたら驚くわよー。
ねえ、貴壱は、女の子には優しいし、こうやって一途になるって言ってるし、考えてやってよ?
不実な男じゃないって事は、証明できるわ」

あたしの顔を見て、りえさんが綺麗に口紅の塗られた唇を持ち上げた。

「美男美女でお似合いよ」

あたしは何も言い返せずに苦笑するしかない。
この人にお似合いと言われたところで、何にもならない。

あたしが気持ちを伝えていない以上、どうしようもない。
「貴壱、押しが足りなんじゃない?」

「かな?」

「そんな事ないですっ」

これ以上押されてなるものかと、あたしは必死に言い返す。
ますます赤くなる顔を隠すべく、俯くと、りえさんが楽しそうに笑った。

「やっだ、なんかあたし、すんごいお邪魔虫よね?当てられちゃったわー。
仲良くやんなさいよ、また、どっかでね」

「みんなにも、連絡しないって言っといてよ」

「はいはい、分かったわよ」

鷹揚に答えて、彼女がヒールを鳴らしながら店を出て行く。
あたしは顔を上げることが出来ずに固まったままだ。

肩に回されたままの腕を意識してしまって、微動だに出来ない。

柿谷さんの手が、あたしの髪を優しく撫でた。

「脈ありって思ってもいい?」

「・・・し・・知りません・・」

答えた自分の声があまりに弱々しくて、驚いた。

言いたいことは沢山あって、でも、どれも言葉に出来ない。
好き、というたった二文字さえ言えないのに。

頬の火照りが収まるまで、俯いている事に決めて、カフェオレのカップを握りしめる。

あたしが顔を上げるまで、柿谷さんは髪を撫でてくれていた。

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