彼と彼女の花いちもんめ~意地悪王子の包囲網~
性悪女は私です。
「ちょっと、仁科さん!!」

管理課を仕切る先輩女性社員が声を上擦らせて、あたしを呼んだ。

社員の勤怠管理画面を見ていたあたしは、作業の手を止めて笑顔で振り返る。

男女ともに好かれるコツは、女性には男性以上に気を遣う事だ。
メイクでも服装でも何でもいい、相手の事を褒めて、認める、これに尽きる。

「はい」
きちんと返事をしたあたしに向って、鬼の形相で彼女が捲し立ててきた。
「あんた、いつの間に柿谷さんと仲良くなったのよ!?
この間の営業との合コンも来てなかったのに!!
もしかして、個別に伝手あるの!?」
「えっと、鈴木さん、お話の意味が・・・っげ!!」

ぐいぐい制服の袖を引っ張られて振り向いた先には、先日の彼の姿。
あたしは心底神様を呪った。

「仁科さーん、ちょっと時間、いーかなぁ?」

いーわけねぇだろ、このタコ、ハゲ、ボケ!!!

心の中で盛大に罵って、ぐっと怒りを堪える。

今日の事は忘れてくださいね、と特大の笑顔でお願いしておいたのに!!

「はい、なんでしょう?」

怒りはおくびにも出さずに席を立つ。
彼の元へ歩み寄る前にぐっと拳を握る。

動揺した方が負け、だ。

「お仕事のお話ですか?」
「足、直ったみたいだねー、傷残んなくて良かったなー」
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