花束に、気持ちを込めて。

その日は、たくみくんと話すことなく帰ってきた。

「あら、おかえり。」

ただいま。

そう手話で伝えながら、体でドアを押すように家に入る。

自分の部屋に行こうとすると、肩を叩かれた。

「何かあったの?」
「……?」
「だって……」
お母さんの顔が、少し悲しそうに歪む。
「最近は、よく喋ってくれたじゃない。」

そう……だったっけ?

「最近は、手話も、ホワイトボードもあまり使わないで、頑張って喋ってたでしょ?」
……
「だから、ちょっと安心してたんだけど。……やな事でもあった?」
ううん。
と、首を横に振る。
「そう、じゃあいいんだけど……」



たくみくんと、話していたからだ。
たくみくんに、自分の声を聞いて欲しいって思ったからだ。
でも。

たくみくんにとっての大切で、声を聞きたい人は自分じゃなくって。

喋ってた意味が、今はないんだよ……
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