君と計る距離のその先は…

 お互いに何も喋らない時間は呼吸や心臓の音まで聞こえそうな静寂に包まれた。

 束の間の静寂を過ごしていると思い出したように橘さんが口を開いた。

「真野に謝る機会を与えてくれたんだ。
 宮崎には感謝しないといけないな。」

 先ほどより明るい声に、やっといつも通りの橘さんに戻った気がしてホッと息をついた。

 息をついたことで自分が緊張していたのだと気づいた。

 私は緊張の緩みとともに橘さんの方へ体を少しだけ傾けた。
 橘さんが息を飲んだのが分かった。

 微かに触れた温もりがあたたかい。

「リバウンド……するんです。」

「リバウンド?」

「薬を飲むと気持ちが大きくなって、人が苦手なのに触れたくなったり。
 薬が効いている時と切れた時の反動で精神状況が不安定になったり。」

「そう……。」

「少しだけ……。
 今は橘さんに触れていた方が安心できる気がします。」

 目を閉じて私はその温もりに体を預けた。
 今は……この温もりに触れていたかった。
< 102 / 192 >

この作品をシェア

pagetop