君と計る距離のその先は…
どれだけそうしていただろうか。
不意に橘さんが私へ声をかけた。
「真野、もう帰った方がいい。
タクシー呼ぶから。」
立ち上がって行ってしまいそうな橘さんの腕を思わずつかんでいた。
「違っ。違うんです。
分からないけど、違う。」
何も違わない。
私が来たくらいで橘さんは眠れたりしない。
そのくらい分かってる。
ここにいたって何も解決しない。
それなのに一度触れた温もりに心はぐちゃぐちゃになって、つかんだ腕を離せない。
「何が違わない?」
優しい声色の橘さんにどうしてか涙がこぼれ落ちた。
「ごめ、んなさい。
泣かれても困りますよね。」
離れていきそうな温もりはあの日のコーヒーショップのことをフラッシュバックさせて、私を不安定にさせた。
橘さんと気まずくなって、それで………。
「あぁ。今だけ、抱き寄せていいなら。」
「ダメ、です。」
「ダメなのかよ。」
ため息混じりに苦笑した橘さんが私の前に手を差し出した。
「約束だしな。俺からは触れない。
でも、今は触れてた方が安心出来そうなんだろ?
もし、真野が必要なら。
大丈夫。勘違いはしないように努力する。」
私は差し出された大きな手に自分の手をそっと重ねた。
大きな手は私の手を包み込んだ。