君と計る距離のその先は…
診察室に通されると『如月薫』と書かれたネームプレートをつけた医師が微笑んで座っていた。
「今日は『眠れない』ということですが、いつからどの様な症状が?」
物腰が柔らかい雰囲気がどうしてか俺を苛立たせた。
「あの、、。『偽薬』を処方することもあるんですか?」
俺の質問に目の前の医師はピクリと反応して、それでも微笑みを崩さない。
眠れてないのは本当で、昨日も結局は真野のことが気になってよく眠れたとは程遠い夜を過ごした。
極度の寝不足が正常な判断を欠いた行動をさせているのかもしれない。
「偽薬を処方して欲しいのでしょうか。
珍しい患者さんですね。」
「いえ。知り合いがここに通っていて、どういうつもりで彼女に処方したのか、、。」
真野はこいつを信頼しているようだった。
じゃなきゃ『偽薬』と知ってあんな風に狼狽しないだろう。
信頼していたのに、偽薬と知らされていなかったようだった。
「そのような質問はお受け出来ません。
守秘義務があるのはもちろんご存知ですよね?」
それはそうだ。
ここで真野のことをペラペラ喋られたら、この如月という医師を警察にでも突き出したい気分だ。