君と計る距離のその先は…
「しかし真野は……。」
「真野、、。
あぁ、あなたがあの先輩ですか。」
俺は何をやってるんだか。
丸腰で敵地に乗り込んで来るような真似……。
俺を哀れに思ったのか、如月は俺の質問に少しだけ答えた。
「偽薬を治療に使う場合もあります。
個人情報はお話し出来ませんが、偽薬を使うことで自信をつけてもらったりすることも出来ます。」
偽薬とは有効成分のない、ただのデンプンなどを薬に似せて作ったもの。
薬を飲んだつもりになって病気が治ることをプラセボ効果というらしい。
それくらいネットで調べれば分かることだ。
副作用が強い精神安定剤を飲むよりも偽薬を飲んで安心できるのなら、それに越したことはないだろう。
ただ、気になっていたのはそこじゃない。
真野が動揺していたことだ。
偽薬とは知らず、信じて飲んでいたのではないか。
そのことをこの医師に問いただしたところで………。
自分が意味のないことをしていて、真野の力にはこれっぽっちもなれなくて、いかに滑稽なのかを身をもって知った気がして「すみません。もう結構です」と席を立った。