君と計る距離のその先は…

 橘さんは手を差し出して立ち上がらせてくれようとしていた。
 その手におずおずと自分の手を重ねた。

 脚が震えて上手く立てない私を橘さんは支えてくれる。

「触れられるのも嫌?」

 切なくなるような心許ない声はあの橘さんとは思えない。

「えっと、今は平気です。
 思いのほか安心するというか。」

 まだ脚がガクガクする私は橘さんにしがみついた。
 その後頭部を優しく撫でてくれる。

 さっきまでとは違う。
 その手は、ただただ優しい。

 何故だか泣けてきそうになって鼻の奥がツンとした。

 涙腺、おかしいんじゃない?
 元はといえば、この人のせいで怖い思いをしたはず。

「悪かった。」

 チンッと軽い音を鳴らしたエレベーターが資料室のある地下に到着した。

 私を軽々と持ち上げた橘さんはエレベーターから降ろすだけ降ろして解放した。

 まだ足取りの覚束ない私を置き去りに彼は行ってしまった。
 目さえも合わない。

 からかわれてるの?私。なんなの?

 悪い人ではないかもと思ったのに、彼のことがますます分からなくなった。


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