君と計る距離のその先は…
個室の座敷に通されて向かい合って座った。
健太さんは次から次へと橘さんのことを面白おかしく話した。
不思議と緊張しないのは橘さんの話題で盛り上がって楽しいからだと思う。
「橘さんって熊みたいな人だろ?
俺、死んだフリしてみたこともあるんだ。」
「それで騙されてくれた?」
健太さんは肩を竦めて口を尖らせる。
「めざとい熊だったみたいだ。」
「ふふっ。
でも本当。熊みたいに大きいよね。
最初に見た時、驚いたもの。」
今まで出会ったことのない大柄な男性におののいたことを今でも覚えている。
「俺への制裁は橘さんにとっては軽いパンチなんだろうけど、スッゲー痛いし。
鈍痛っていうの?」
「鈍痛って。」
健太さんが面白おかしく話すものだから全部が楽しくて、嫌なことも忘れていられた。
「真野さん、明るくなったよな。」
「え?」
突然の感想に驚いてマジマジと健太さんを見つめる。
健太さんはしみじみと言った。
「これも橘さんのお陰なのかな。」
橘さんの……。
そう、なのかな。
散々、悪口を言っていたのに、やっぱり健太さんは橘さんを慕っていることに変わりはないみたいだ。
顔の前で組んだ手を額に当てながら、話し始めた。