君と計る距離のその先は…

「橘さんはさ、口は悪いし、不器用だし?
 だけど真っ直ぐな人で、俺、橘さんにならこの身を捧げてもいいってくらい。」

「すごいなぁ。健太さんは。」

「すごいってどこか?
 すごいのは橘さんでしょ?」

「崇拝してるね。」

 照れたように笑う健太さんが少しうらやましい。
 手放しで尊敬してるって言えればどれだけいいか。

「健太さんは、怒られてるのにへこたれないでしょ?」

「褒めてるの?それ?」と健太さんは笑う。
 顔を見合わせて笑い合って、それから健太さんは少し真剣な表情で話を続けた。

「1年前にさ。
 俺、取り返しのつかないくらいのヘマして。
 スッゲー怒られたんだ。」

「うん。すごく怒られてたね。
 関係ない私もすごく怖かったもの。」

 1年前。覚えてる。
 だってその橘さんの激昂している剣幕が恐ろしくて、それで……。

「だよね。
 俺なんか、鬼のように怒られてこんな奴の下で働いてられるかよ!って心の中で逆ギレしてた。」

 そんな風に思えるくらいがきっと丁度いいんだ。
 私は自分じゃなくて人が怒られているのを聞いていただけなのに……。

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