君と計る距離のその先は…
「橘さんからは触れないって!」
「いいから。」
よくないよ。
早まる鼓動に息苦しさを感じていると引かれた手は橘さんの胸元にいざなわれた。
体中が心臓になった錯覚に陥りそうになって、ハッとした。
手から伝わる鼓動は自分のだけじゃなくて、手の向こう側から伝わってくる……。
「情けないけど真野を前にすると心臓が壊れそうになる。」
確かに伝わる力強い鼓動は私の鼓動ではなかった。
橘さんの鼓動は本人が言うようにものすごいスピードで早鐘を打っていた。
緊張しているのは私だけじゃなかった。
そう思うと少しだけ穏やかな気持ちになれる気がした。
私の手に添えられていた手は、もう一度、私の手を取って、そっと持ち上げられた。
そのまま顔を近づけた橘さんが手の甲へ唇を寄せた。
触れるか触れないか分からないほどの優しい手の甲へのキスは胸をキュッと締めつけた。
「好きだ。真野。俺は真野だけだ。」
真っ直ぐに見つめられて目をそらせない。