君と計る距離のその先は…
もう片方の手を頭の後ろへ添えられて、引き寄せられた。
そしてもう一度、掠れて消えかけた声。
「好きだ。」
消えそうな声は胸を震えさせるのには十分で、私は引き寄せられるまま橘さんへ近づいて、そのまま優しく唇が触れ合った。
頭に添えられた手に導かれ、力なく橘さんの胸元に不時着した私は「緊張してる人の行動だなんて思えない」と訴えたくて、けれど言葉を上手く操れずにいた。
私はどうにか不平を訴えたくて、顔をうずめる橘さんの胸元を数度叩いた。
それでどうにか気持ちが伝わったみたいだ。
「ごめんって。
ものすごい緊張に勝るくらい真野に触れたい気持ちが上回るんだよ。」
どういう理論?と、心の中で文句を言ってみても動揺はおさまらない。
「今度は引っ叩かれたり、泣かれたりしなかったな。」
安堵したように言う橘さんに文句を浴びせた。
「だって約束……。」
やっと出た声は震えて自分で聞いて泣けそうになる声。
橘さんは私を覆うように優しく抱きしめて囁くように言った。
「うん。そうなんだけど。
俺を克服したら対人恐怖症もよくなるんじゃないか?
原因の俺が平気になれば治りそうだろ?
それでもやっぱり触れちゃダメ?」
そういう、ものなのかな。
返答に困っていると「治った時に俺とは違ったって思ったら教えて」と優しい声が届く。
切なくなって思わず橘さんにしがみつくと「真野、可愛い過ぎる」と言われ抱きしめられると頭にキスを落とされた。