君と計る距離のその先は…
3.ギャップだらけ
仕事が終わり、まだ残っている人達に「お先に失礼します」と声を掛けながら職場を後にする。
今日はのんびり家で煮込み料理でも作って舌鼓しよう。
ゆっくり出来そうな時間に帰れることに浮かれつつ何を作ろうかと思案する。
エレベーターに乗り込み、行き先ボタンを押そうと振り返ったところでデジャブかと思える光景を見ることとなった。
「お疲れ。」
「お疲れ様です…。」
息を切らした橘さんがネクタイを緩めながら乗り込んで来た。
精悍な横顔から垣間見える色っぽい仕草。
その姿は見惚れそうになると言えばなるのかもしれない。
まったくもってタイプではないんだけど。
先ほどの珍事件の結果、俺からは触れないと宣言した彼は狭いエレベーターの奥まで進み、私と一番離れた位置で壁にもたれたのが気配で分かった。
義理堅くて真面目。
そんな彼のイメージと一致して些か安堵した。
「この後、飲みに行かないか。」
想像し得ない言葉に私は思わず振り返って彼を凝視してしまった。
目を丸くした橘さんが苦笑するように柔らかく笑った。
「そんなに俺が誘うのはおかしいか?」
「あ、いえ。……いや、変ですね。」
「フッ。どっちだよ。」
優しく笑う橘さんが意外過ぎて、それなのに胸は鼓動を速める。
何より未だかつて飲みに誘われたこともない。
何もかもが意外だ。