君と計る距離のその先は…

「真野?」

 玄関にある小さな靴に胸を高鳴らせて部屋に入ると真野は小さくうずくまっていた。
 待ちくたびれて眠ってしまったみたいだ。

 そっと髪を撫でて耳にかけてやると白く柔らかな頬がくすぐったそうに微かに動いた。

「ん……橘さん。
 タバコ、くさい……。」

 まだ寝ぼけてる声色が堪らなく可愛い。

「あぁ。悪い。
 取引先の会議室で缶詰だったから。
 会議室で吸わないルール、上の人ほど守らないよな。」

 スーツや体に染みついてしまっているであろうタバコのにおいを恨めしく思う。
 今すぐにでも真野を抱きしめたいのに。

「シャワー浴びてくる。
 真野は、もう少し寝てな。」

「ん………。」

 真野は夜が弱いのかもしれない。
 前も遅くなるとうとうとして、それがものすごく可愛い。

「あー。やばい。可愛い。」

 キスしたい衝動をどうにか抑えて、タバコくさい体を洗い流す為にシャワーへ向かった。
< 142 / 192 >

この作品をシェア

pagetop