君と計る距離のその先は…
「あの、人がまだ怖くて。」
「うん。」
「珍しい人と話すと心が疲れてしまって。」
「……うん。」
「だからなのか、反動なのか、橘さんにこうしてくっついていると安心できるというか。」
「……ん?
珍しい疲れる人は俺じゃなくて?」
「いえ、ここに来る前に永島さんとご一緒したので。」
「あぁ」と納得した声を出した橘さんが私の背中に手を回してトントンと子どもを寝かしつけるように手を添えた。
「真野とは話さなきゃいけないことがたくさんあるな。
今日はもう遅いから寝たほうがいいか。」
「えぇ。電車があるうちに帰ります。」
「……そうだよな。
いや、タクシーで帰りな。
送ってやりたいけど俺が帰る電車が無くなりそうだ。」
なんだか急に寂しい気持ちになって、どうしてだろう、もう帰らなきゃ終電がなくなってしまうのに体が思うように動いてくれない。
「あの、橘さんは大丈夫ですか?」
「なんの心配?」
微笑む橘さんの胸元に顔をうずめた。
「だって『会いたい』ってメール。」
フッと笑った橘さんが「じゃ帰してやらない」と悪戯っぽく囁いた。
「や、そうじゃなくて。」
ダメだ。帰らなきゃ。
明日も仕事だし。
「実際、離したら消えて無くなりそうな心配はあるよな。」
「それは、私も……。」
橘さんらしからぬ心許ない声に、私も本音がこぼれ落ちて橘さんにしがみついた。
「……泊まってく?」
橘さんの甘い囁きにコクリと頷いた。