君と計る距離のその先は…

「最近は隣より向かいの方がいいみたいだから」と向かい合って座った席。

 目の前に座る橘さんは手を伸ばして手の甲で私の頬を撫でた。
 私は橘さんの外でも変わらない甘さにも雰囲気にも戸惑いを感じて肩を縮こませた。

「向かいに座ると顔がよく見えていいな。」

 とろけそうな笑顔で言われて俯くことしか出来ない。

 そんな顔で言われると何も言えないよ。

「フッ。
 真野はやっぱり隣の方が良かった?」

 隣でもきっと今の橘さんとは落ち着けないと思う。
 可愛くてお洒落なレストランは味さえも分からないくらい緊張してしまった。


「疲れた?もう帰ろうか。」

 気を遣って言われているのが痛いほど分かって、それに、自分だってあんなに初デートだって楽しみにしてたのに……。
 純粋に楽しめる余裕もないのに裏腹な心は声に後悔をのせた。

「せっかく来たのに、、。」

「何か他に……。
 あぁ。じゃ指輪でも見ようか。」

「ゆび、指輪って。」

「いいから。好きなの買ってやるから。」

 橘さんが指し示したところには高級ジュエリーショップがあった。

 え、ここ?
 思いつきで簡単にプレゼントしてもらうような所じゃ………。

 私の戸惑いは置き去りに、橘さんは普通のお店に入るのと変わらない足取りで入っていく。

 橘さんの辞書に『怖じ気づく』っていう言葉は載ってないんだろうな……。

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