君と計る距離のその先は…

 居酒屋に着くと後からもう一人来る旨を伝えて席に案内された。

 トイレ前を横目に見つつ、まさかわざとじゃないよね?とため息をついた。
 嫌でもキスされたことを思い出す場所。

 いやいや。どちらかと言えばストレート過ぎるくらいストレートな人なんだから、深い意味はないはず。

 この際、美味しいものを人のお金で飲み食いしてやろう!と気を取り直した。

 でも。その前に。

 私は鞄からポーチを出すと錠剤を手にした。

「ご注文はお決まりですか?」

「は、はいっ!」

 店員さんに声を掛けられて肝を冷やしつつ、適当に食べたいものを頼んだ。
 もちろんビールも。

 本当に来れるのか分からない橘さんの分は考えずに自分だけ食べられる量にしておいた。

 手には先ほどポーチから出した錠剤。

 飲んでおかなきゃ。薬。
 切れたらマズイ。
 私の命綱みたいな大事な薬。

 居酒屋では最初にお水は出されないから、注文したものが届くまで握りしめたまま。

 今日は早く上がれたから大丈夫。
 まだ平気。
 外はまだ暗くなってない。

 私は呪文を唱えるように頭の中で繰り返した。
 加えて何度も携帯の時間を確認する。

 その時間を見てはまだ平気。まだ大丈夫。
 と、繰り返した。

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